1. HOME
  2. インタビュー
  3. くどうれいんさんと及川賢治さんの絵本「ぜんぶ やりたい まにちゃん」 人生やりたいことはひとつに絞らなくてもいい!

くどうれいんさんと及川賢治さんの絵本「ぜんぶ やりたい まにちゃん」 人生やりたいことはひとつに絞らなくてもいい!

『ぜんぶ やりたい まにちゃん』(Gakken)より

「どうしてひとつに決めなきゃいけないの?」とずっと思っていた

――この本ができた背景を教えてください。

くどう:はじめはGakkenの月刊絵本として依頼されたお話だったので、3月に出すならば春っぽい話や出会い、友達をテーマに何か書いてみようと思ったんです。でも私自身そういう話が全然好きじゃなくて、結局、自分の経験や気持ちなど、自分の感情がある程度乗っているテーマでないと、いい絵本が書けないなと感じたことがきっかけです。今何を思っていて、何を言いたいんだろうと考えたときに「やりたいことをひとつに決めなきゃいけない」というテーマが浮かんできて、まにちゃんが暴れ始めたんですよ。

及川:絵を依頼されたのは、お話ができあがってからでした。普段は「どんな絵にしようか」と思いながらお話を読み進めるのですが、このお話は普通に感情が入り込んじゃって。すぐに、まにちゃんのファンになっちゃいました。このいろんな意味で「やばいことをする」と思われるような子が、僕大好きなんですよ。

『ぜんぶ やりたい まにちゃん』(Gakken)より

くどう:私自身、今、小説とエッセイと短歌と絵本、この4つをメインにやらせていただいていて、「やっていることが多すぎるから、ひとつに決めなさい」とよく言われてきました。どのジャンルからも「色物」として見られている感じがありましたね。ひとつを突き詰めるかっこよさもわかっているからこそ、できない自分へのコンプレックスもありました。

 でも作家になった今、ひとつにしなきゃダメだよと言ってくる人はいなくなりました。勝手なもんだなと思ったんですよ。全部が全部、やりたいと思ってやってきたことを、そのままずっとやっているだけなのに。むしろ今、ひとつじゃなきゃダメだよと言われたいような気持ちもあったりもして、あの、ひとつじゃなきゃ本物じゃないよと言われていたような時期って何だったんだろうということをしばらく考えていました。

 だから、やりたいことがいっぱいあるまにちゃんを描くと同時に、そこから勝手に将来を期待したり、まにちゃんはこうであってほしいという気持ちを押し付けようとしたりする街の人も描きたいと思いました。誰も意地悪じゃなく、良かれと思って言っているんですよ。及川さんがそういう街の人もちゃんと描いてくださったことは嬉しかったですね。

周囲の対応が変わっても、まにちゃんは変わらない

――楽しそうにしていたまにちゃんが、急にモノクロで描かれたページに変わる場面があります。街の人のほうは今まで通りのカラフルなタッチなので、印象的な場面ですね。

及川:これから不穏なことが起こりそうな予感を描きたかったんです。背景の木は、iPhoneで実際の木を撮ってきて、家でモノクロに加工して作りました。何か異質の表現が入ってくると、不安で嫌な感じがします。それまでは、主人公のエネルギーも表現しながら、背景を入れたカラフルな印象のページで構成しました。

『ぜんぶ やりたい まにちゃん』(Gakken)より

くどう:周囲の人たちの「どれが いちばん だいじなの?」「いつかは ひとつに きまるものさ」っていう言葉の何気ないけどひゅっと背筋が凍る感じを、うまく表現してくれて嬉しいです。感情的にゾッとするし、かっこいい見開きだなって思います。

――まにちゃんはひどい風邪をひいてしまいますが、この「病気になる」というのはどういうイメージで描かれたのですか?

くどう:執筆しながら、まにちゃんを毎日いろんなところに連れて行って、いろんなことさせていたら、こりゃあ風邪をひくだろうなって思ったんです。体力的につらくても、本当に楽しいときってできちゃうから。まにちゃんが誰かに傷をつけられて引きこもるような展開ではなくて、普通にやりすぎて風邪をひくのがいいなと思いました。

 でも、まにちゃんは変わらないんですよ。風邪をひいただけ。それなのに、まにちゃんがいなくなった途端、街の人が勝手に「まにちゃんがいなくて さみしい」なんて言い出す感じを描きたいと思いました。

『ぜんぶ やりたい まにちゃん』(Gakken)より

「やりたいこと」を周囲の都合や価値観で諦めないで

――どのお仕事も、まにちゃんは「やりたくて」「よくにあっていて」「ぜんぶたのしい」と書かれています。この「にあっている」はどういう気持ちで選ばれた言葉ですか?

くどう:この言葉は、自然に出てきた言葉ですね。「にあう」って、自分に判断基準がある感じがするんです。成功しているからいいわけじゃない。全部ものになっているかはわからない。でも気に入っていて、納得していればいいじゃんかって思うんですよ。たとえそれが全部取ることになっちゃったとしても。「にあう」っていうのは、そのときに「無理していない」っていう気持ちです。

『ぜんぶ やりたい まにちゃん』(Gakken)より

くどう:だから、本人の好奇心を他者がコントロールすることはできないのかもよ、と言いたかったのかもしれません。実際は体力の制限や時間の制限もあるけれど、「やりたい」という気持ちに対して周りが言えることって「いいね!」だけなのかもって。

――この絵本は、どんな人に手に取ってもらいたいですか。

くどう:私は子ども向けではなく、すべての人のために絵本を書いているので、対象年齢は考えていないです。私が描く絵本は「昔の」私が読みたかったものですね。子どもの頃、絵本の中に自分がいないなって思うことがたまにありました。自分みたいな子が出てこないなって。だからこそ、自由奔放な絵本に救われてきたところがあります。

 いろんなやりたいことがあって、どれも上手くやれていないんじゃないかって落ち込むことがある人もいるんじゃないかと思うんです。全部が全部やれているまにちゃんを見て、元気をもらってくれたらと思っています。もっとわがままに、諦めないでパワフルにいこうって、私もまにちゃんから元気を貰っています。

及川:確かに、まにちゃんの、このブルドーザーのように進んでいくパワーはすごいですよね。僕もこの謎のパワーのようなものが伝えられるように意識して描いているので、絵からもそういうテンションを感じてもらえたら嬉しいです。