故障者続出、でも思いがけない味方は日々現れる。河崎秋子「肉弾」のように 中江有里
2026年4月28日、私は今季初の神宮球場に参戦していた。
阪神のWエースのひとり、才木浩人投手が2回6失点で降板するのを呆然として見ていた。
今季、支配下登録され、初めてセンターで出場した福島圭音選手がタイムリーツーベース、5番の大山悠輔選手が3ランを打ったけど、結果は5-10。好調ヤクルトの勢いを止められなかった。
試合後、気を紛らわせようと1駅分歩いて帰った。エースがKOされるのは自分事のように辛い。
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辛いのはこれだけじゃない。4月26日の広島戦では、不動のセンターだった近本光司選手が左手首を骨折して離脱していた。
どのチームにもケガやコンディション不良などで離脱する選手はいる。
主力が抜ければ、当然戦力ダウンする。
阪神タイガースは、1番から5番までほぼ打順固定されている。
皆がそろって打たなくても、誰かが打ってくれる。
いつも同じポジションを守ってくれる安心感。
しかし1番が離脱した。打順は変わらざるを得ない。
これからチャンスの場面やピンチの場面になると、たぶん思う。
「もし○○選手がここで居てくれたら……」(今なら近本選手、石井大智投手が当てはまる)
マウンドに、ベンチに、あるいはブルペンに、その姿がない不安にまだ慣れていない。
河﨑秋子『肉弾』の主人公・キミヤは大学を休学中。いわゆる引きこもり、ニートと呼ばれる状態に陥った息子に父は「狩猟の免許、取らねえか」と提案する。
気が進まぬまま免許を取得したキミヤは、父とともに北海道へ向かうことになる。
そして山深くに分け入ったその時、父は熊に襲われ、キミヤは突然独りになった。
数々の危機を乗り越えていくうちに、キミヤの野性はむき出しになっていく。
そして迎えた、熊との最終合戦。
独りきりのキミヤの前に、意外な味方があらわれ、彼を援護する。
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山の中のキミヤには思いがけない味方があらわれるが、野球のグラウンドには、思いがけない「新戦力」があらわれる。
4月30日の神宮球場、ヤクルト戦で、今季初登板した西勇輝投手は、試合途中から降りだした小雨の中、2被弾しながら5回を投げ切り、約2年ぶりに勝利を手にした。
ヒーローインタビューで言った「自分の立場はわかっている」という35歳の言葉に、この試合にかけた覚悟が感じられた。
チームで闘っているけど、個々の闘いがある。
チームの勝利だけでなく、野球選手としての命をかけている。
近本選手が抜けたセンターには、高寺望夢選手、岡城快生選手、福島選手が躍動。
そしてついに5月19日、年に一度、倉敷で開催される試合で立石正広選手が一軍合流、即スタメン出場!
世にも稀なドラ1カルテットが誕生、見事勝利した。
打順は球場や選手の状態によって、これからも変更があるだろうし、チャンスをつかむ若手、復活するベテランの登場も期待したい。
不動である強さもあるけど、人が入れ替わっても勝っていける強さもある。
アクシデントもピンチも、チャンスに変えていけるはずだ。
シーズンは長い。誰が活躍しても、嬉しいのには変わらない。