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伏尾美紀さんの読んできた本たち 明智小五郎への初恋から始まった警察小説への道(前編)

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子供向けの探偵小説にはまる

――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

伏尾:今回このお話をいただいてから、過去に読んだ本を思い出そうとしたんですけれど、ところどころ抜けていたり、読んだ時期が曖昧だったりするんですね。小学校に上がる前は絵本を読んでいたと思うんですけれど、何を読んでいたのかまったく私の中に残っていないので、いきなり小学校時代の話から始めさせてください(笑)。

――ぜひ(笑)

伏尾:小学生になって学校の図書室を利用できるようになってから、ポプラ社さんの江戸川乱歩原作の子供向けの「少年探偵団」シリーズにはまって借りていました。それが私の記憶に残っている、印象的な読書の一冊目だったんじゃないかなと思っていまして。表紙のイラストがおどろおどろしくて、タイトルも『怪人二十面相』とか『少年探偵団』とか『青銅の魔人』で、子供の頃はそういう怖そうなものとか、未知のものへの憧れがあったのかなと思います。当時図書室にあったこのシリーズはほぼ読みつくしました。

――探偵に惹かれたのか、怪人に惹かれたのか、少年探偵団に惹かれたのか...。どこに魅力を感じていましたか。

伏尾:私はたぶん、初恋は明智小五郎だと思うんですよ(笑)。あのシリーズって明智小五郎の登場場面はあまり多くないんですよね。少年探偵団の小林少年が怪人二十面相なり悪人と闘ってピンチに陥ると颯爽と駆けつけて、小林少年が泣きながら「先生!」みたいな感じで駆け寄っていく時の明智小五郎の格好良さに憧れました。少年探偵団の話を読むというよりも、ゲスト出演みたいな形でおいしいところをかっさらっていく明智小五郎が目当てで読んでいたところがありますね。それが小学校の低学年か中学年くらいです。

――以前インタビューした時に、小さい頃にお母さんに「探偵になりたい」と伝えたとおうかがいしましたが、その頃でしょうか。

伏尾:そうだと思います。この頃、「少年探偵団」シリーズのほかに、翻訳ものでも「少女探偵ナンシー・ドルー」シリーズや「少女探偵ジュディ・ボルトン」シリーズ、兄弟探偵が出てくる「ハーディー・ボーイズ」シリーズなどアメリカの少年少女向けの探偵小説がたくさんあって、それも図書室に並んでいたんです。たしかナンシー・ドルーが一番人気だったんですけれど、私はもうちょっとお姉さんのジュディ・ボルトンのシリーズが大好きで、たぶんジュディに憧れて「将来は探偵になりたい」って言ったんだと思うんです。そうしたら親に「本当の探偵というのはね、事件を解決したりしないのよ」と言われ、現実をこんこんと諭されました(笑)。それがきっかけかどうかは分からないんですが、後々警察小説にはまっていったのは、その時の親の言葉がどこかに残っていたからかなという気もします。だからといって警察官になりたいと思ったことは一度もないんですけれど。探偵というのはあくまでも物語世界のものなんだと、現実と切り離してとらえるようになっていきました。

――小学生時代、その他の読書はいかがでしたか。

伏尾:学校の図書室で読んだ本でいうと、小説ではないんですけれど、小学生向けの小学館の「なぜなに図鑑」や、それと似たシリーズがいろんな出版社から出ていたんですね。『世界のふしぎ』とか『からだのふしぎ』や近未来のお話などいろいろありましたが、いちばん印象に残っているのは、忍者の生活を解説しているシリーズでした。忍者が情報を得るためにお屋敷に忍び込んで天井裏にいると、住人に察知されて下から槍で突かれて忍者の額に刺さるんですが、バレてはいけないから声も出さずに静かに槍を抜き取って、さらに自分の痕跡を残さないように槍の先についた血を拭き取って屋敷から情報を持って逃げる、みたいなことが書いてあって。そういう類のシリーズが大好きで、結構読み漁っていた記憶があります。

 他には伝記ですね。『ヘレン・ケラー』や『キュリー夫人』や『野口英世』など偉人関係の本は親がよく買ってくれました。

 それと、いわゆる子供向けの名作シリーズ。『赤毛のアン』、『あしながおじさん』、『若草物語』、『小公子』、『小公女』などの名作系も一通り読んでいました。そのなかで、1冊目で私もはまったんですが、親がはまって全巻揃えてもらったのが、ローラ・インガルス・ワイルダーの『大草原の小さな家』のシリーズです。アメリカに入植した家族の成長物語になっていて、続編が何冊もあるんですよね。

――どんなところにはまったのですか。

伏尾:私は、インガルス家の次女で主人公のローラと歳が近いこともあって、やはりローラ視点で楽しく読んでいました。今考えると、親世代にとっては家族で未開の大地に入植して、土地を耕してすべて手作りで始めていって、苦難もありつつ、小さな喜びもありつつ、一家が団結していろんなことを乗り越えていくところに感動があったのかなと思います。

――『大草原の小さな家』は当時、ドラマが放送されていましたよね。

伏尾:たしかNHKでずっと放送していましたよね。ドラマが先だったのか小説を読んだのが先だったのかの記憶は曖昧なんですけれど、私もドラマを見ていました。演じていた役者さんたちが、本物のインガルス一家なんじゃないかと錯覚するくらいはまり役で面白かったですね。

――親御さんはわりと本を買ってくれたのですか。

伏尾:量でいえばそんなにたくさん買ってくれたわけではないです。ただ、両親も本は好きだったので、たとえば家に山岡荘八の『徳川家康』全二十六巻が揃っていました。それを衣装ケースみたいなものに保管していて、「面白いから大きくなったら読みなさい」といって見せてもらっていた記憶があるんですけれど、私が小さい頃は引っ越しが多くて、転居している間にどこかにいってしまったらしくて。親が「きっと間違って捨てちゃったんだな」と言ってすごく後悔しているのが幼心に記憶に残りました。親が読んでそんなに面白かったのならいつか読んでみようと思いながらも、結局読みそびれています。徳川家康は有名人ですから、いろんな作家さんが書いた家康像をもう知っているので、いまさらその生涯を一から読む気になれないこともあって。

 そんなこんなで親は本好きではあったんですが、いつも本を買ってくれるわけではなく、誕生日など何かの節目に買ってくれるか、『大草原の小さな家』のように自分がはまると買ってくれるパターンが多かったです。それでいうとパール・バックの『大地』も、第一部を私が何気なく読んだら面白くて、親も読んで面白いといって全巻買ってくれて、なんなら私よりも親がはまっていました。あれは中国が舞台で、貧しいところから成りあがっていく一族のお話ですよね。今とはまた違う昔の中国のお話として私も面白いなと思っていたんですけれど、親にしてみると、あれも家族の歴史を追った大河小説みたいな面白さがあったのだろうなと思います。

――小さい頃、引っ越しが多かったのですか。伏尾さんは札幌在住というイメージが強いのですが。

伏尾:札幌市内で何か所か引越しして、一回だけ道内で地方にいったことがある、という感じですね。

――国語の授業は好きでしたか。

伏尾:好きか嫌いかでいうと、そんなに好きではなかったんですよね。特に作文や読書感想文はあまり得意ではなかったかもしれません。課題図書を与えられるのが苦手だったんです。私にとっては面白いと思える課題図書がなくて、それを読まないといけないのがすごく苦痛で。自由に本を選んで書ける場合はわりと好きだったんですけれど。

 課題図書は、もちろん名作ではあるんですよ。でも事件も起こらないし、おどろおどろしくないし(笑)。私が子供の頃に読んだ『赤毛のアン』や『あしながおじさん』や『若草物語』みたいにドキドキする要素もないし...みたいなことをその時は思ってしまっていました。

――その頃、将来作家になりたいとはまったく思われていなかったのですか。

伏尾:実はちょっとだけ思っていました。小学校の時に「将来の夢」というテーマで作文を書いたことがあって。私はすごく引っ込み思案で、内向的な人間だったので、作文とはいえ自分の本音を書けない人だったんです。本当は「小説家になりたい」と書きたかったんですけれど、書いたら先生や同級生に何を言われるのかが怖くて、本音を書けなくて。それで、なぜか「英語の先生」って書いちゃったんですね。自分の中では、どちらも先生だし博識だし、共通点があると思ったのかもしれません。それに「英語の先生」と書いておけば、まわりから何も言われないだろう、という気持ちもあって。本音を隠して「英語の先生」と書きましたが、たぶん、その時にはじめて、「作家になりたいな」と意識したんじゃないかと思います。

――ご自身で物語を空想したりすることはあったのですか。

伏尾:子供の頃から物語を作るのは大好きでした。憶えているのは、たぶん父の誕生日の時に、誕生日プレゼントにお芝居のシナリオを書いて弟と二人でそれをやったんですよ。内容は特にオチも何もなくて、グダグダグダっと終わった気がします。でも当時からなんとなく、人のためにお話を書いて喜んでもらうのが好きだったのかなと思います。

本好きの友達に薦められた海外エンタメ

――今振り返ってみて、周りの子に比べて自分は読書家だったと思われますか。

伏尾:小学生の頃は、「私、結構本を読んでいるほうだな」と思っていたんですけれど、中学に入ってお友達になった子たちが、私なんか足元にも及ばないくらいの読書家で。しかも、私は小学生の頃は子供向けシリーズを読んでいたんですよ。エラリー・クイーン、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーといった作家の名作といわれるミステリにしても、子供向けに書き直されたシリーズを読んでいました。でもその子たちは子供向けではないアガサ・クリスティーや筒井康隆や光瀬龍を読んでいたんですよ。その子たちに貸してもらって中学生の時にはじめてアガサ・クリスティーの『鏡は横にひび割れて』を読んで衝撃を受けました。そこからクリスティーの代表的な作品を読み始め、大人の読書に移っていきました。

――ハメットやチャンドラーも子供向けのものがあったのですか。

伏尾:ダシール・ハメットの『マルタの鷹』も挿絵が入っている子供向けのバージョンがありました。クイーンの『エジプト十字架の謎』の子供向けの本は、たしか十字架が真ん中に描かれている表紙でした。今思うと、それらは内容を結構はしょっていたんですよね。生々しい部分は割愛されていたんじゃないかな。だから作品の本当の良さは残っていなかったんじゃないかなと思うんですよね。

 当時は子供向けに書き直されたものをたくさん読んでいました。たとえば『レ・ミゼラブル』も『ああ無情』というタイトルの子供向けのものを読んだので、私はこのお話はもう知っていると思っていたんです。大人になって『レ・ミゼラブル』を読んだら、全然知らないエピソードがいっぱい入っていて驚きました。

――クリスティーではどの作品が面白かったですか。

伏尾:当時読んだなかでいちばん好きだったのは『象は忘れない』ですね。これは子供の頃に両親が心中して孤児になった少女がいて、大人になってから両親の死の真相を知ろうとする話です。お父さんとお母さんのどちらが先に相手を殺したのかを知りたいといってポアロに依頼をする。で、ポアロが当時の関係者に話を聞きに行って、過去の事件を推理するんです。事件が今進行しているものではなく、過去の事件について当時の関係者に話を聞いて、その中の矛盾みたいなものからポアロが真実を見つけ出していくところが、まだミステリの読書歴が浅い自分にとって衝撃的で印象的でした。

――伏尾さんはデビュー作の『北緯43度のコールドケース』や最新作の『百年の時効』でも未解決事件を扱っていますが、未解決事件の真相を探る面白さをその頃に味わっていたのですね。

伏尾:そうですね。未解決事件をどうやって解決するかという、その行程を読むのは結構好きかもしれないです。

――お友達が筒井康隆や光瀬龍を読んでいたとのことですが、SFも読まれていましたか。

伏尾:はい。当時、友達は筒井康隆派でしたが、私は星新一派だったんですよね。私はSFではライトなシリーズが好きで、同じ友達からお薦めしてもらった高千穂遙さんの「クラッシャージョウ」シリーズや「ダーティペア」シリーズにはまりました。これは本当に面白かったですね。

 その頃、中学で新井素子さんがブームになって、私もすごくはまって。新井さんのあの文体が大好きで、文体模写というわけではないんですけれど真似したりしました。授業中に友達に手紙を書いてこっそり渡すのが流行っていた時に、新井素子さん風の文章を書いてみたりして遊んでいました。

 そういう新井素子さんの思い出があり、乱歩賞に応募した時に新井さんが選考員のおひとりだったこともあり、そのご縁で『北緯43度のコールドケース』の文庫の解説は新井素子さんなんですよ。私が中学の時に読んでいたあの文体の、まさに新井素子節で書いてくださって、すっごく感激して嬉しかったです。中学時代からの伏線回収のような感じもしました。

――中学時代は課題図書の読書はいかがでしたか。太宰治とか芥川龍之介といった古典的な作品などを読む機会があったのでないかと思いますが。

伏尾:中学では課題図書を読まされた記憶がなくて。それとは別に太宰や芥川は読みましたが、全然苦じゃなかったです。そんな印象に残るほど読み続けたわけではないんですが、面白く読みましたし、古典的な作品が嫌になることはなかったです。

――部活は何かされていたのですか。

伏尾:バドミントン部に入っていました。本当はバレーボール部に入りたかったんですよ。「アタックNO.1」に憧れて。でも親に「バレーボールは集団競技なんだよ。そういうの苦手でしょう?」と、やんわりと「やめたほうがいいんじゃないか」という感じのことを言われました。親は子供の性格を分かっていたんですよね。それでも中学に入ってせっかくだから何か部活をやりたくて、個人競技のバドミントンならいいかなと思ったんです。でも競技自体は個人ですが、部活はなんだかんだいって体育会系の上下関係があるし集団生活なので、やっぱり合わないとなって一年くらいでやめました。以来、中学の時は、部活は入っていないです。

――それほど内向的だったのですか。

伏尾:そうです。休み時間になると教室で一人で本を読んでいるタイプでした。ただ、私にいろんな本を薦めてくれた同級生と知り合えたのも教室でした。私がモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパン」シリーズを読んでいたら声をかけてくれたんです。そこからいろんな本を紹介してもらうようになりました。こっちから積極的にアクションをおこさなくても、趣味が似ているとちゃんと交友関係は広がっていくんだと中学の時に分かったのでよかったなと思っています。これはかなり後になってからですが、その友達がメフィスト賞の作品が大好きで、私にも舞城王太郎さんをお薦めしてくれたので、ちょっとだけメフィスト賞に応募しようかなと血迷った時期がありました(笑)。まあ、自分には舞城王太郎のような小説を書くのは無理だなと思ってやめましたが。

――その中学の時のお友達とは大人になってからも交流が続いていたということですか。

伏尾:そうですね。その子とは中学高校が一緒で、その後彼女は進学で東京に行ってしまったのでちょっと疎遠になったんですけれど、私が東京に遊びに行くと一緒に遊んで、「今こういうのを読んでいる」という情報交換をしていました。私は社会人になってから車通勤を始めたので通勤時間に本を読む習慣ができなかったんですけれど、彼女は東京で電車通勤で、本がないと通勤時間を乗り切れないようなことを言っていました。常に新しい本の情報を仕入れては読んでいる人だったので、20代くらいまでは彼女から面白い本を教えてもらっていました。

 中学時代に彼女はもう、ジェフリー・アーチャーの『百万ドルをとり返せ!』とか『大統領に知らせますか?』を読んでいたんですよね。それで私も読んでみたらすごく面白くて。このあたりから国際謀略ものやスパイものも読むようになって、読書の世界も広がっていった感じです。

――当時の流行っていたスパイものというと、ジョン・ル・カレとか...?

伏尾:そうですね。ただ、ジョン・ル・カレやジャック・ヒギンズ、フレデリック・フォーサイスを真剣に読むようになったのは社会人になってからだと思います。ル・カレに関しては、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が「裏切りのサーカス」というタイトルで映画化されたものを観たのが先でした。これは小説より先に映画を観て正解でした。というのも、とにかく登場人物が多いうえにコードネームもついてくるんですよ。読みながら頭の中で情報整理する時に役者さんの顔を当てはめていくと、本の内容が頭に入ってきやすかったです。

 ジャック・ヒギンズの『鷲は舞い降りた』もたぶん映画を観たのが先で、その後書店で原作を見つけて買って読みました。『ジャッカルの日』も同様で、先に若い頃に映画を観ていて、その後原作を読んだ流れだったと思います。

――映画やドラマもよくご覧になっていたのですか。

伏尾:そうですね。海外ドラマが好きでした。特に小学生とか中学生の頃は、午後の3時台や5時台から結構古い海外ドラマを再放送していました。「刑事コロンボ」とか「刑事コジャック」とか「チャーリーズ・エンジェル」とか「バイオニック・ジェミー」など、たくさん放映されていたので、小学校から帰ると、まずそれを見るのが楽しみでした。

 その後も、夜9時や10時に、「探偵ハート&ハート」など海外の軽いミステリが放送されていて、毎週見るのが楽しみだった時期がありました。それと、映画は洋画が全盛期で、アガサ・クリスティーの作品もたくさん映画化されていたんですね。『オリエント急行殺人事件』とか、『ナイルに死す』が原作の「ナイル殺人事件」とか、『鏡は横にひび割れて』が原作の「クリスタル殺人事件」などがありました。それらは原作を読んでから映画を観たのか、映画を観てから原作を読んだのか曖昧なんですが、それくらい映像作品が身近にあった時代でした。

 映像の話でいうと、横溝正史の「犬神家の一族」も面白かったですね。市川崑監督のバージョンのほうです。たぶん劇場ではなくてテレビで放映されていたのを見たと思うんですけれど、それで横溝正史にはまりました。テレビドラマでも古谷一行が金田一耕助を演じた連続ドラマがあって、何回かにわたってひとつの話をやっていくんです。それも面白くて。そこから『真珠郎』や『病院坂の首縊りの家』など横溝正史の小説を読み漁っていった時期があります。教室の片隅で読んでいた記憶があるので、たぶん高校生の頃だと思います。

 あとは松本清張、山崎豊子、森村誠一も、もしかしたら先にドラマや映画を観て、原作があるんだと知って読んだのかもしれません。母の蔵書にあったものを読んだのがきっかけだったと思います。

――それらの作家で印象に残っている作品はありましたか。

伏尾:松本清張はやっぱり『砂の器』もすごいんですけれど、小説で比較すると私は『点と線』のほうが好きです。『砂の器』は映画の印象がものすごく強くて。ただ、『砂の器』の、目撃者が耳にしたわずかな言葉「カメダ」をヒントに、それが地名じゃないかというところから刑事がどんどん犯人に迫っていくところは、本当に面白く思いました。自分が『百年の時効』を書く時もその部分はちょっと意識しました。小さな小さな手掛かりから、少しずつ犯人に迫っていく部分に関しては、『砂の器』がものすごく参考になったとは思っています。

――ああ、やはり!『百年の時効』を読んで松本清張味を感じたんですよ。映画の「砂の器」は、丹波哲郎が刑事役でしたよね。

伏尾:最初に『百年の時効』のプロットを考えた時、ちょっと丹波哲郎が頭にあって(笑)。ああいういかにも昭和の男くさい刑事を考えていたんですけれど、使いどころがなくて。結局丹波哲郎は消えていきました。

警察ものの漫画やドラマにもはまる

――ところで、高校では部活は入っていたのですか。

伏尾:高校の時は、その読書好きの友達に誘われて美術部に入りました。その子は漫画も描けて、お昼休みに自分で創作漫画を描いているような子だったんですね。私は絵を描くのが好きというよりは、その子とお話がしたくて入部しました。そうしたら似たような内気な子たちがなんとなく集まっていたので、そういう子たちとずっと漫画とかアニメとか小説とか、あと音楽の話をして放課後を過ごしていました。

――漫画はどのあたりがお好きだったんですか。

伏尾:前回の嶋津輝さんの「作家の読書道」を読んだら、年齢が近いせいか子供の頃に読んでいた漫画がことごとく被っていて、ちょっとテンションがあがりました(笑)。私も子供の頃は『悪魔の花嫁』や『翔んでるルーキー!』、『エースをねらえ!』や『エコエコアザラク』を読んでいました。『ベルサイユのばら』や『ガラスの仮面』も読んでいて、いちばん好きだったのは『はいからさんが通る』。漫画も親がはまると全巻買ってくれる法則が活きていて、大島やすいちさんの『おやこ刑事』というシリーズがそうでした。名前の通り父と息子が刑事で、1話完結で事件を解決していく内容だったんですけれど、漫画をあまり買ってくれなかった親も、「これはいいよ」と言って全巻揃えてもらいました。

――警察ものだったんですねえ。源泉を感じます。

伏尾:そうですね。読書歴の棚卸をしていてこれを思い出した時、私はこの頃からちゃんと警察ものを読んでいたんだなと、自分でもびっくりしました。

――警察ものといえば、当時ドラマで「太陽にほえろ!」など刑事ドラマが流行っていたと思うんですが、そういうのはご覧になっていました?

伏尾:見ていました。「太陽にほえろ!」、「Gメン'75」、「特捜最前線」あたりですね。特に「太陽にほえろ!」は私が子供の頃に始まって、高校生になってもまだ人気があったシリーズで印象深いです。高校時代はたしか神田正輝と三田村邦彦が若手刑事役だった時期で、友達が神田正輝派で私が三田村邦彦派で、学校でそういう話をしていた記憶があります。ただ私は、「太陽にほえろ!」ももちろん好きだったんですけれど、「Gメン'75」の雰囲気が好きで。香港ロケシリーズがあったんですよ。毎回、悪党を追ってGメンたちが香港に飛んで、アクションシーンが始まるんです。香港の大スターのカンフーの達人と日本のアクションスター倉田保昭さんが闘うのがお決まりで、私はその香港シリーズが大好きで。毎回ワクワクしながら見ていた記憶があります。

――弟さんとは、漫画などの貸し借りはしましたか。

伏尾:弟がはまったのは高橋留美子さんの『うる星やつら』でした。私が中学生の頃にアニメが始まって、五つ下の弟はまさにアニメからはまって単行本も買ってもらって、それを一緒に読んでいました。『北斗の拳』あたりも一緒に読みました。弟はそういう少年漫画も好きだったんですけれど、私の本棚にあった『ポーの一族』など面白そうなものはとりあえず読む子だったので、読んだ後に「あの場面は...」などと話をすることもありました。

――その頃で、ミステリ以外で印象に残っている本はありますか。

伏尾:母が佐藤愛子さんが好きで、特にエッセイが好きだったんですね。母に「面白いよ」と言われて私も読むようになって、そのなかでも『娘と私の時間』と『娘と私のアホ旅行』という2冊が印象深かったです。私にとって佐藤愛子さんは、自分が読まないジャンルを書いている作家さんという印象でしたが、読んだら本当に軽妙で笑えるエッセイで。こんなものを書ける人がこの世の中にいるんだ、佐藤愛子すごいな、みたいに思いました。ただ、エッセイ以外はあまりはまらなかったです。

――高校卒業後はどうされたのでしょうか。

伏尾:一応地元の大学に進学しましたが、そこで読書好きの友達と離れてしまって。今回、大学時代の読書を思い返そうとしたんですけれど、印象深いエピソードは見つかりませんでした。一応、青春はしていたと思うんですよね。アーチェリー部に入って活動したり、アルバイトをしたり、合コンしたりしていたんですけれど、あんまり読書はしていなかったですね。学生時代から社会人の最初の頃までは、あまり記憶に残る読書はなくて、むしろ映画を観ていました。読書でなくそっちのほうにいった感じですかね。

――これまでも映画のタイトルがいくつも挙がっていますが、どのあたりがお好きだったのですか。

伏尾:手あたり次第に観ていました。もちろん劇場にも観に行きましたが、当時はレンタルビデオが盛んだったので、週末になると何本か借りてきて過去の名作を含めてずっと観ていました。翌週それを返して、また新しいのを借りて、ホラーからSFからアクションから、本当に手当たり次第観ていました。

――好きな監督や俳優はいましたか。

伏尾:えっと......。いろいろいるんですが、今ぱっと頭に浮かんだところでいうと、私はニック・ノルティという役者さんが好きだったんですよ。どちらかというとアクションやバイオレンス系に出る役者さんで、彼がエディ・マーフィと共演した「48時間」の音楽とアクションシーンがものすごく好きで。続編の「48時間PART2/帰ってきたふたり」は劇場に観に行ったんですが、当時の劇場って2本立てで、しかも入れ替え制ではなく一度入ったらずっといられたんです。で、その時「48時間PART2」と同時上映だったのがデミ・ムーアの「ゴースト」で、それも面白い映画だったんですが、私はとにかくニック・ノルティを何回も観たいので、毎回「ゴースト」が間に挟まるのがとにかく苦痛で(苦笑)。それでも頑張って何回も何回も観た記憶があります。

 今ちょっと名前が出てこないんですが他にも好きな役者さんはいて、名前を並べていったら友達に「なんか、きれいなジャガイモが好きなんだね」って言われたことがあるんですよ。言われてみれば、たしかにちょっとゴツくてマッチョで金髪で...みたいな役者さんが結構好きですね。そういう人たちはなかなか主演にはならず、虫みたいに殺される役とかが多いんですけれど...。あ、正統派もちゃんと好きです。キアヌ・リーブスも好きで、「マトリックス」とか「ジョン・ウィック」とかも観てます、はい。

――失礼ながら「きれいなジャガイモ」と聞いてまず浮かんだのが、えっと、私も名前が出てこないんですが、「リーサル・ウエポン」の...。

伏尾:あ、はいはい、メル・ギブソンですね。好きです(笑)。ただ、メル・ギブソンは「マッドマックス」の一作目がめちゃくちゃ格好いいんですよ。一作目の時のメル・ギブソンはまだ全然メジャーではなくて、あれが出世作になったと思います。観た時に「格好いいな。メル・ギブソンはおぼえておこう」と思いました。

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伏尾美紀さんの読んできた本たち 国内外の警察小説を読みまくった会社員時代 そして「百年の時効」へ(後編)