ヒリヒリしたペナントレース 「もしもし、運命の人ですか。」に誘われて妄想の世界へ 中江有里
阪神タイガースにマジック23が点灯したのが8月末。
1カ月後にはきっと優勝している。Xデイはいつだろうと心弾ませていた。
しかし現実は甘くない。
9月、今季最長の7連敗。負ける度、心がぺしゃんこになった。
絶頂からいきなり突き落とされたような気分。
阪神タイガースはいうなれば「底」の状態。
かろうじて首位……首の皮一枚とはこのことだ。
秋の気配漂うこの時期まで、ヒリヒリとしたペナントレースが続いている。
精神的にはしんどいけど、緊張感を持って一試合一試合観られるのはある意味幸せ……と自分に言い聞かせているが、本音は「はよ安心させてほしい!」
ペナントレースは長い。ずっと勝ち続けられないし、ずっと負け続けてもいつかは勝つ。
だけど負けが込むと、自信を失う。機嫌が悪くなる。ちょっと自暴自棄気味にもなる。
推しのチームの勝ち負けは、興味のない人には理解が及ばないだろう。
それは恐ろしいほど、心揺るがす。毎日の眠りの質が悪くなる。
特にひとりで負け試合を観た時は、どうしようもなく落ち込む。
複数人での観戦なら、一緒にガックリして「また明日」と言えるけど。
ひとりで落ち込んでいる時、立ち直らせるのは自分しかない。
負けが込んだある時、こんな心境になった。
「負ける準備はできている」
後ろ向きだと言われそうだが、「負ける」と思っている方が楽なのだ。
そうやってダメージをくらわないよう、心にバリアを張っている。
最終的に優勝してほしいけど、自分の心を守りたい。それだけ。
歌人の穂村弘氏のエッセイが好きだ。『もしもし、運命の人ですか。』はめっちゃ好き。
恋愛エッセイとある。どんな恋愛かと言えば、運命の人に出会った時のシミュレーションが延々と続く。その妄想のバリエーションの抱負さと自虐っぷりがなんとも味わい深い。
たとえば飲み会(一次会)が終わって、二次会へ行く流れができるが、これ以上何もおこらない気がして、
「俺、帰るよ」
「ええー?」
周囲から思いがけない声があがる。
ぱっと嬉しくなる。
何、俺にいて欲しいの?
心の声が駄々もれだ。タイトルの「運命の人」という言葉の引きが強い。
運命―それはあらかじめ定められたもの。抗えないから運命と呼ぶ。
運命の人というのは、自分と対になるような存在だろう。
阪神タイガースを推していると、この思いは恋愛感情と似ているような気がしてならない。
その存在を最大限肯定する、そんな感情だ。
もし運命の人がいるとするなら、阪神タイガースとしておこう。
大事だと思う試合の前日は、必ずといっていいほど夢を見る。これも一種の妄想だ。
夢で妄想の試合を繰り広げる。誰にも迷惑をかけないので思い切り妄想している。
阪神タイガースには強くあってほしいし、勝っていてほしい。いい試合をしてほしい。
勝っても負けても、変わらずに応援できますか?
結婚式の誓いの言葉みたいになってきた。もちろん誓います。