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ページ薬局(大阪) 薬局×本屋という異色の組み合わせ 「本屋という空間が好き」な薬剤師がつくった 本との偶然の出会いが生まれる場所

 大阪に行くことになった。せっかくなので、本屋を訪ねたい。そこで日刊ゲンダイ紙上で「本屋はワンダーランドだ!」を連載中の井上理津子パイセンに、おススメを聞いてみた。すると「蛍池に薬局で本屋がある」と教えてくださった。えっ薬局で本屋? 百聞は一見に如かず。大阪に着いたらまずは行ってみようではないか。

外から眺めただけでは、ここに本があるということはわからない。

 蛍池駅は伊丹空港からの大阪モノレールの一駅先にあり、梅田方面に向かうにはここで阪急電鉄に乗り換える必要がある。モノレールを下車して線路沿いに4分程度歩くと、マンションの1階にあるページ薬局が見えてきた。隣は昔ながらの喫茶店のようだが、どこからどう見ても街の調剤薬局に見える。

 「処方せん受付」と大きく書かれた自動ドアを開ける。奥にカウンターがあり、壁沿いに椅子が並んでいる。うん、やっぱり調剤薬局じゃないか……と思いきや! 入口から見て右側の壁が、一面本棚になっていた。待ち時間の退屈しのぎに雑誌や絵本を置いている薬局はよくあるけれど、これって売り物の本ということなのだろうか?

「はい、そのとおりです」

 迎えてくれたのは、ページ薬局を手掛ける瀨迫(せさこ)貴士さんだ。名刺には「薬剤師」とあるが、本屋であり薬局であるというのは、一体どういうことなのだろう?

代表の瀨迫貴士さん(左)と、管理薬剤師の尼子慎太さん(右)。

「本屋という空間が好き」な薬剤師

 瀨迫さんは大阪生まれだが、高校卒業まで広島市内の学校に通っていた。父親は薬剤師で、広島だけでなく大阪市内にも店を持つ薬局の息子だった。10代の頃から家業を継ぐことは考えていたけれど、その前に薬剤の営業現場を知っておいたほうが良いのではないかとのアドバイスを受けて、大学卒業後は2年間、製薬会社でMRをしていたという。

「実家は広島ですが、母親が大阪府池田市出身なのもあり、大阪府内にも店が2軒あります。2年間MRとして働き、2015年に退職して、大阪市平野区にある薬局に勤めることになりました」

 薬剤師として4年ほど働いてきた2019年5月、「薬剤師としてだけではなく、自分はこの先、どう生きていきたいのか」と、考えるようになった。まずはインプットしよう。そのために瀨迫さんは、1カ月間に100冊の本を読んでみようと思い立った。

「私立理系出身なので国語は苦手だったし、マンガは好きだったけれど読書の習慣もありませんでした。大学生になって必要に駆られて本を読むようになり、大学を卒業してから多い月で50冊、普段でも月に30冊は読んでいましたが、100冊は初めての試みでした」

 まとまった読書の習慣はこれまでなかったけれど、本を読まない人生よりも読む人生のほうが充実していることは間違いない。それに蛍池がある豊中市は「本のあるまちづくり」を掲げた市政運営をしている。100冊チャレンジと並行して本屋巡りを始めると、ワクワクしている自分がいることに気づいたと語った。

「飽きっぽい性格なのに、本屋通いはずっと続けられたので、大声で主張する自信はなかったけれど、『本屋という空間が好きなんだ』と改めて思いました」

 100冊を読むにあたり、せっかくなので誰かのおススメを読んでみようとSNSで募集すると、さまざまな推薦が寄せられた。どのコメントも明るく、瀨迫さんは返信コメントを読むうちに「本を介して誰かと会話するのは、とても楽しい。本を介したコミュニケーションを生み出したい」と感じるようになり、本や本屋のことを、もっと知りたいと思うようになった。

「そこから街の本屋の現状や流通についてなど、本にまつわることを調べ始めました。書店員経験はまったくなかったけれど、本屋を外側から応援したくて、内沼晋太郎さんの『これからの本屋講座』に半年間通いました」

 果たして本屋を応援するにあたり、何ができるのか。薬局と本屋が融合した店作りをしてみたいけれど、まずはアイデアを形にしてみよう。片面に書店の広告、片面に地元の店のクーポンが描かれているブックマーククーポン、その名もブクマクーポンの企画を、とあるチェーン系書店に持ち込んだ。が、反応は芳しくなかった。

「何度も通っていた店とはいえ、今考えるとよく話を聞いてくれたなと思います。そうこうしている間にどんどん街から本屋がなくなっていき、なんとかしたい思いは日増しに強くなりました。そこで内沼さんから本の仕入れ方法などを教えていただき、自分でやってみることにしました」

 そうと決まれば話は早い。現在の店舗を任されることが決まった2020年初頭から準備を始め、約半年後の2020年6月1日にオープンすることになった。

「両親からは書店業界の状況の厳しさから『本を置いて果たして売れるのか?』と言われましたが、本は価格が固定されていて返品が可能なことなどを説明しました。オープン当初は薬を受け取りに来た人のほとんどが『これ売り物なの?』『ここって本屋なの?』と、疑問に感じていたようです(笑)」

 しかし他ではお目にかかれないスタイルが功を奏し、あちこちのメディアで取り上げられていくうちに客足も増えていったそうだ。ところで毎回お決まりの質問だけど、なぜ「ページ薬局」という名前にしたのですか? 瀨迫さんによれば厚生労働省のガイドラインにより、調剤薬局は必ず「薬局」を入れることが決められていて、他の業態と勘違いしてしまうような名前もNGなのだとか。そこで色々思案した結果、「たった1ページが人生を変える」という思いから、ページ薬局になったのだと教えてくれた。

テレビモニタやパンフレットなどが置かれていることが多い場所が、本棚に。

本のある空間が人を育てる!? 「薬剤師書評家」が爆誕

 調剤薬局では処方が終わるまでの間、店内に置かれているテレビを見て過ごすことも多い。しかしページ薬局にはテレビがない。椅子に座ると目に入るのは本棚だ。「本との偶然の出会い」をコンセプトに小説や実用書、エッセイなど、約1000冊を並べている。オープン当初は瀨迫さんが読みたいと思っていたり、読んでおススメと感じた本が品ぞろえの中心だったが、今は8人いるスタッフが選書している。うち4人はオープン時から勤務を続けているが、本屋部門が専業という人はゼロだ。

 

視覚効果を狙っているのか、市販薬を紹介する棚がある壁も、本棚の壁紙になっている。

「求人する際に『書店と薬局を掛け合わせた店にしたい』と書いたら、思っていた以上に応募がありました。医学的根拠がないのに『これで病気が治る』という本や、読む人を不安にする本など、薬局にそぐわない本は置かないことにしていますが、基本的に選書はスタッフに任せています。常連の方に『こんな本があるんだ』とほめていただけるとうれしくなりますが、何より『本って面白いものなんだ』と気づいてもらえるような、そんなセレクトを目指しています」

 

調剤しながらポップも手掛ける。味のあるイラストと文字が目を引くもの多し。

 個性あふれるイラストや、「なるほど~」と思ってしまう推薦文が描かれたポップを見ているうちに、確かにこれまで手に取ってこなかった本と出会うことができる。どのポップからもおススメの気持ちが伝わってくるが、なかでも管理薬剤師の尼子慎太さんによる推薦文はあちこちで話題になり、2024年本屋大賞の発掘部門「超発掘本!」に選ばれた井上夢人さんの『プラスティック』(講談社)の、帯にも使われることになった。「30年の時を超えた衝撃をもたらすはず」とのコメントを信じて買って読んでみたが、単行本の初出は1994年ということで「ワープロ」「フロッピイ」が物語の重要なアイテムになっている。今ではそれを見たことすらない世代も増える中、先の展開が読めない物語と出会い直せるとは。

 尼子さんも私立理系育ちだけに、高校時代は宮部みゆきを愛読していたものの、大学に入ってからはほとんど本を読んでこなかったそうだ。しかし読まなければおススメすることはできない。今では月に5~6冊はコンスタントに読むようになったと語った。薬局と本屋を合体させたことで、薬剤師で書評家が爆誕した。人が本のある空間を育てるのと同時に、本のある空間が人を成長させていくんだな。そう考えるとやっぱり、本屋の持つ力ってとても大きいのではないか。

「徐々に存在が認知されていきましたが、今でも本屋部分単体での売り上げは、厳しいものがあります。しかし売り上げが少なくてもキリキリせず、薬局に本屋があることの魅力や付加価値を伝えていけたらと思っています」

マイナ保険証読み取りリーダーと「図書カード取扱い店」のアクスタが並ぶのを目にしたのは、今回が初だ。

 約15年にわたって離島の本屋を訪ねてきた身としては、本屋は本だけを売る場所にあらずということはよくわかっている。野菜を置く、服や雑貨を置く、食品を置く――。「本プラス何か」は珍しくなかったものの、それは人口が少なく、店舗が限られる地域での話だった。しかし前回紹介した千葉県のnoma booksは、カフェの売り上げで本屋部分をカバーしていた。ページ薬局は、薬の売り上げが屋台骨になっている。本屋のありかたそのものを見つめなおす時が来たのかもしれないと、今回さらに気づかされた。

 とはいえ今では、本を目当てに訪ねる人も増えつつある。オープン5周年を迎えた2025年、岩井圭也や早見和真ら15人の作家がおススメ本を処方する「小説家15人の処方せん」というフェアを開催。すると全国津々浦々から人がやってきた。大阪市の正和堂書店によるオリジナルブックカバーを配布したところ、カバーのために静岡からはるばるやってきた人もいたそうだ。

 薬は必要に駆られて手に取るものだけど、それを飲んだり使ったりすることに、先が見えない負担を感じている人もいる。だけど傍らに本が寄り添ってくれたら、少しだけ前向きになれるかもしれない。薬が心身を癒すものだとしたら、本は気持ちを癒してくれるからだ。だからこの2業種の組み合わせって、大いにアリなんじゃないか。すでに宮崎県内に、ページ薬局のノウハウを取り入れた本屋薬局があるとうかがったけれど、さらなる広がりを大いに期待したい。

『店長がバカすぎて』の早見和真さんのサインが白衣に書かれているのが、なんとも「らしい」。

瀨迫さんが選ぶ、人生を変える特効薬になるかもしれない3冊

●『店長がバカすぎて』早見和真(角川春樹事務所)
書店愛とユーモアに溢れた小説で何度も読み返しています。当店の2周年企画として、続編にあたる『新!店長がバカすぎて』の刊行記念著者トークイベントを実施させてもらった、特に思い入れのある作品です。

●『プラスティック』井上夢人(講談社)
2024年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」に選出いただきました。
「意味深なタイトルに魅入られて、手に取った作品。もう30年前の作品で、フロッピーディスクやワープロなど、令和の時代ではピンとこない人達もいるであろう単語が並ぶ作品ですが、主婦である向井洵子が遭遇する奇妙な出来事から、謎が謎を呼ぶその展開は、今読んでもガツンと脳みそに突き刺さる衝撃がありました。小説だからこそ味わえる衝撃は、時代に関係なく共有できるはず。そのパワーを確信できる驚きがこの作品にはあります。僕が味わったこの衝撃を、令和の時代でも共有出来るのか、本作品を通じてチャレンジしてみたいです」(尼子)

●『本屋のミライとカタチ』北田博充編著(PHP)
本屋のこれからを考えるといった、業界の大きなテーマについての本ですが、この中で当店を取り上げてもらったのはありがたい限りです。本書の広義の本屋という考えは書店経営に興味のある人のみならず、仕事として本に関わりたい方の参考になると思います。

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