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noma books (千葉)夫を突然失った50代女性が、地域の老舗書店を引き継いだ理由

  Kamebooksの吉田さんと話していた時に、「昔ながらの商店街っていいよね」という話題になった。最近はチェーン系店舗ばかりという商店街も多いが、なんでも千葉県習志野市の大久保商店街は、歩くとなかなか楽しいという。

 調べてみると、日本大学と東邦大学のキャンパスがあることがわかった。しかも駅から大学までの道に、本屋があるようだ。これは行ってみないと。

 京成津田沼から一駅先の京成大久保で下車する。成田山に行く際に何度もお世話になってきた路線だけど、各駅か快速のみ停車の駅だから、降りるのは今日が初めてだ。スイーツのアウトレットや昼飲みできそうな店を横目に、約8分程度歩く。お目当てのnoma booksは、階段をのぼって2階にあった。

ドアをあけるとすぐ階段になっている。建物の1階は大和屋書店の息子さんによるダンス教室だ。

どんよりした学生時代から一転、平成のモーレツ社員に

 階段すぐ脇にはカウンターがあり、書棚が壁を囲んでいる。アポなしで訪ねたので、この日は代表の馬渡あかねさんは不在。しかし別日に、都内でお話を伺うことになった。

 神奈川県三浦市出身の馬渡さんは、「海が近くにあったけれど、あまり海は好きじゃなかった」子供時代だったと振り返る。代わりに好きだったのは読書で、父親が法律関係書の編集者だったこともあり、馬渡家には本があふれていた。『赤毛のアン』や『メアリー・ポピンズ』など、自立したヒロインが登場する本が大好きで、読みたいがゆえに友達の誘いを断ることもあったと笑った。

代表の馬渡あかねさん。改めてお店でパチリ。
 

「父は編集者でしたが、とくに出版関係を薦められることもなく、私も将来何になりたいということをあまり考えていなくて。でも志望していた大学に進学できなくて、滑り止めだった大学に通っていたのですが、毎日『この先の人生、良いことなんかない』と、まさにどん底の日々でした」

 大学に希望を見いだせなかった馬渡さんは、経営支援コンサルティング会社の関連企業でアルバイトを始めた。

「学生バイトだったのに、社員並みに働かされたんです。人がいたら仕事を振る、手が空いていたら働く、みたいな会社で。だからこそアルバイトでも『ここはこうしたらどうですか?』と提案をすると、すんなり聞き入れてもらえました。風通しが良くやりがいもあったので、卒業後は正式に就職しました」

 その会社には、かつて友人のきいちゃん(仮名)も在籍していた。もはや死語になった「イケイケ」を地で行く社内風土だったことは、私もよく知っている。友人は数年で辞めたが、馬渡さんは飲食チェーンなどの経営支援に、15年ほど携わった。2005年に社内で出会ったパートナーとともに独立し、2006年にコンサルティング会社を立ち上げた。

「たとえば飲食チェーンのフランチャイズ展開は、ノウハウを確立できればノウハウ自体を他社にも応用できるので、経済を活性化するビジネスモデルになり得るのではないかと考えていて。仕事自体が面白くて毎日終電で帰宅していたので、出会いが社内しかなかったんです(笑)。夫が先に独立して、ほぼ同時期に私も辞めて。夫は調査分析が得意で、私は事業規模拡大のための組織づくりを考えたいと思っていたので、違うアプローチで1つの会社をお手伝いする、みたいな感じでした」

情報サイトを見て、地域の老舗書店からバトンを受け取る

 さまざまな業種のベンチャー企業とかかわってきたけれど、本に関する会社との出会いはなかった。独立して15年目にコロナ禍になり、担当していた会社の多くが危機に直面。時期を同じくして夫が体調を崩したものの、コロナパニックで医療機関につながること自体が難しく、馬渡さんの夫も自宅で過ごすことを余儀なくされた。

「補助金申請をサポートするなど、コロナ禍でも経営支援業務は多々ありました。『もう少ししたら仕事を減らすから』と言いながら、家を空けることが多かったんです。夫は2021年に自宅で容態が急変して、57歳で亡くなってしまって。朝は普通におしゃべりをしていたのに、22時過ぎに戻ったら手遅れでした。……今でも『どうすればよかったんだろう』って、すごく考えますね。本当に引きこもりになって、何のために生きているのか分からないとふさぎ込む時期が、半年ほど続きました」

 当時を語る馬渡さんの瞳には、涙が浮かんでいた。過去だけれど、今も続く過去なのだということは私にもよくわかった。

「家族に心配されたこともあり、この先どうしようかと考えました。50歳を過ぎているので、今の仕事をあとどれぐらい続けられるかわからない。だったらこの先は、誰かと縁が続く仕事をしたい。私ができるのは経営再建や経営支援なので、知見を活かしてお店をやってみようと考えるようになりました」

 M&A情報サイトを見ていたら、1927年に創業して95年続く大和屋書店という本屋が、事業を引き継いでくれる人を募集しているとあった。「思いをつなげてくれる方を募集しています」の言葉に、馬渡さんは心惹かれた。大和屋書店に足を運ぶと、スタッフの女性が店に来た人と楽しそうに話している姿が目に入った。

「私がおばあちゃんになって、カウンターに椅子に置いてお客さんとお話できる人生は、もしかしたらとても良いのではないかと感じました。子供の頃、本を読みすぎて親に取り上げられることもあったので、『将来は本屋さんになって、一日中本を読んでやる』と誓った記憶もよみがえりました。それで事業を引き継ぎたいと立候補したのですが、大和屋書店のオーナーから決算書を見せられて『非常に厳しいのがわかるでしょう。やめた方がいいです』と諭されました。取次にも『この業界は厳しいですよ』と言われ、家族にも猛反対されましたが、私は完全に破れかぶれで。皆がやめろというのはむしろチャンスじゃない? とすら思っていました」

 一旦クールダウンして京成大久保地区の人口動態を調べてみると、日中の人通りはそれなりにあり、ファミリー向け分譲マンションも多い。千葉県内でもとくに若い世代が流入している地域だということがわかった。2階の物件で視認性は悪いものの、続けるうちにきっと地域に浸透する。しかしやはり、本だけでは厳しい。ならば利益率が高くてこれまでのノウハウが活かせる、カフェを併設して売り上げをカバーしよう。馬渡さんは夫に先立たれた11か月後の2021年12月に、店を引き継ぐ契約を結んだ。

「夫が亡くなって半年ほど何もできなかったのに、そこからは怒涛の日々でした。大和屋さんは近隣の美容室に雑誌の配達をしていらしたので、閉店からオープンまであまり時間を空けないで欲しいとリクエストされたんです。私はピカピカの空間を考えていたけれど、空間プロデュースを担当してくださった会社から『街になじむように、古い部分を残しながら新しいものと融合させたらどうか』と提案していただきました」

ソファ席とイス席が並ぶ、温かみのある店内。

 「つかの間の大切な場所にしてほしい」からnoma

 当初は野間さんがやっているからnoma booksだと思っていたけれど、「誰かにとっての、つかの間の大切な場所になるように」の「の間」が語源だと語った。

「大和屋書店でも良いと思いましたが、前社長に『大和屋書店は自分の代で終わり』と言われました。私にとっての居場所を作りたい気持ちで始めたので、誰かにとってもそういう場所であって欲しくて、noma booksにしました。2022年5月10日にオープンしたのですが、それは内装の最短仕上がり日だったのと、会社を7月10日に設立したのと、私の誕生日が9月10日なので、10日かなって。夫が亡くなった日も10日なので、縁がある気がしたんですよね」

 

左から深江小百合さん、馬渡さん、深江静子さん、長内さん。静子さんと長内さんは、大和屋書店時代からのメンバーだ。

 現在12名のスタッフは20~60代と幅広く、なんと大和屋書店時代に働いていた人が、ほぼ全員続投している。この日カウンターにいた女性2人はともに深江さんで、義理の親子だった。母の深江静子さんは続投メンバーだからか、声をかけるお客さんも多い。

「私は書店員経験がないので、スタッフに本のことを任せられるのはとても心強いです。店の雰囲気の良さがあったから大和屋書店に惹かれたので、そこを活かすことができました。長年の常連だった方が『私は足が悪くて遠出できないし、本が唯一の楽しみだから続けてくれてありがとう』とおっしゃったのですが、私は商売として始めたのに感謝していただけるなんてと、とても驚きました。同時に、なんと良い仕事なのだろうと、じーんときました」

絵本スペースには子供たちのために、ハンドクラフトの絵本やぬいぐるみが(非売品)。なんとすべてが長内さんによるもので、めちゃくちゃクオリティが高い。

AIと人の目と手が、本屋であることを支える

 現在の在庫は約8000冊で、うち約600冊は雑誌だ。スタッフのセレクトコーナーもあるけれど、地域の人たちが手に取るものが品ぞろえのメインになっている。なかでも売り上げの柱でもあるコミックは、目利きだったスタッフが退職して以降は、現場に丸投げせずAIを活用して売り上げ管理しているという。コンサルのノウハウは本屋の棚にも十分活用できるようだ。なんだか、新時代の予感がする。

 

陳列やメニュー開発などは、スタッフにゆだねている。任せたことでアイデアがどんどん形になり、働きやすさの追求も進んでいると馬渡さんは胸を張った。

 カフェメニューに目を向けると、カレーやハヤシライスなどがっつりメニューとともに、季節ごとの味が楽しめるドリンクが並んでいる。店頭の本はすべてカフェスペースに持ち込みOKというのも、これまでになかった形態だ。本が汚損するかもしれないのに、気になりませんか?

「ブックカフェだから、ブックとカフェを隔てたくなかったんです。スタッフにも本が汚れるとか、ただ読みされてしまうと心配されましたが、本はどこで買っても同じ値段だから、お客様にとって来たいと思う何かを提供したくて。それに本を読みがてらメニューオーダーしてくだされば、店の売り上げになります。実際これまで、本を汚されたり盗まれたりするようなことは起きていません」

 長く続いた店に新しい要素を吹き込んだnoma booksを、地域の人たちは「私の店」と受けとめているのかもしれない。赤ちゃん連れの女性、1人でドリンクを飲むご婦人、レポート書きに没頭している大学生、高校生らしき2人組と、座っている人たちも実に多様だ。

「始めた当初は全然お客様が来なくて、少しずつ口コミで広がっていった感じです。地元の方が月に2、3回来てくれる、誰にとっても居心地の良い店になったらいいなと思っていたので、そう感じてくださっているならうれしいですね」

 書籍の売り上げは今も厳しいが、それは想定内。むしろ想定外だったのはここ最近の食材の値上がりや人件費の高騰で、店と雇用を維持するために平日の営業時間を1時間短縮したと、馬渡さんは悔しさをにじませた。一方で「これまでのコンサルティングで得たノウハウを活かして、ほかの書店が続くための策を提供していけたら」と、希望も口にした。

 本も本屋界隈も暗い話ばかりで、先行きが明るくないのは事実だ。でも本屋であることを守りつつ新たな発想を持ち込めば、道は拓けていくかもしれない。安易にメニューを減らしたり人を切ったりしない。どんな状況でも最善を考える馬渡さんに、私は本屋の新時代を見た気がした。

この日はレモンシャーベットが乗ったはちみつレモンフロートと、ハヤシライスのランチにしてみた。

馬渡さんが選ぶ、コーヒーとともにほっこり味わいたい3冊

●『リカバリー・カバヒコ』青山美智子(光文社)
公園のカバの遊具「カバヒコ」に、自分の治したい部分と同じところを触ると回復するらしい、という噂をめぐるお話です。設定だけ聞くと少し不思議なのですが、出てくる人たちの悩みはとても身近です。 5つの短編からなる連作短編集なので、長編小説に慣れていない人でも読みやすいです。うまくいかないことがあったり、自信をなくしたり、人と比べてしまったり。そういう人たちが少しずつ自分を取り戻していく。結局、カバヒコが助けてくれたのかどうかは最後まで分かりません。でも読み終わったあとにちゃんと残るものがあって、ワクワクしながらページをめくりたくなります。

●『ひらやすみ』真造圭伍(小学館)
29歳のヒロトが、近所のおばあちゃんから譲り受けた平屋で暮らすコミックです。ヒロトは、世間一般の「こうしたほうがいい」というものから少し外れたところにいる人なのですが、本人はあまり気にしていなくて、ご飯を作ったり、散歩したり、人と話したりしながら毎日を過ごしています。そんなヒロトと関わる人は皆、ヒロトのことが好きで、一緒に楽しい時間を過ごします。コミックを読みながら、ちょうど良い感じに気の抜けたヒロトの日常を一緒に感じて、気づいたら良い時間を過ごしたなという気持ちにさせてくれます。読む時期によって感じることが少しずつ変わる本だと思います。

●『団地のふたり』藤野千夜(双葉社)
50代の幼なじみの女性二人が、子どもの頃に住んでいた団地に戻って暮らしているお話です。一緒にご飯を食べたり、フリマアプリで物を売ったり、ご近所の人を手伝ったり。本当にそれくらいの毎日で、50代で独身で、安定した仕事についているわけでもなく……。それでも読んでいると妙に楽しい気持ちになります。結婚して家庭を持つとか、仕事で成功するとか、そういう分かりやすい人生のゴールから少し離れたところで、二人が自分たちなりに楽しそうに暮らしている。「しあわせってこういう心の持ちようなんだ」と思える、少し気持ちが自由になるところが良い本です。

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