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生命は物質というより現象なんです 生物学者・福岡伸一さん、研究の歩み語る

朝吹真理子さん(左)と福岡伸一さん=高橋雄大撮影

 生物学者の福岡伸一さんが、〈科学といのちと文学と――福岡ハカセ、「生命と文学」を語る〉と題し、早稲田大学(東京都新宿区)で8日に講演した。

 講演の冒頭、会場正面のスクリーンに映し出されたのは、福岡さんがいちばん好きな虫だという鮮やかな青色のルリボシカミキリ。内向的な昆虫少年だった子供時代、マウスを使った遺伝子研究などを回顧しながら、福岡さんはこれまでの研究の歩みを振り返った。ルドルフ・シェーンハイマーという研究者の「生命は機械ではない、生命は流れだ」という考え方を一歩進めて、生命のありかたは「動的平衡」という考え方で説明できると思うようになったと語った。

 「生命体というのは、ちょっと禅問答みたいですけれど、大きく変わらないために小さく変わり続けているんです。分解と合成の絶え間のない均衡の上に、生命は成り立っている。生命というのは、物質というより現象なんです」

 一方で福岡さんは、たとえば方丈記の冒頭の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節や、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの「万物は流れる」という考えを引き合いに出して、「流れのなかに命があるということは、文学者や哲学者が先見的に気がついていたことを、科学がより解像度の高い言葉で言い直しているにすぎない」とも語った。

 「だから、人文知というのはいつも科学の羅針盤であったと、私は痛感しているんです」

 福岡さんの講演のあと、小説家の朝吹真理子さんが壇上に加わった。

 ルリボシカミキリのきれいな青色の話になると、朝吹さんは「私が好きなのは、ブルーシートの人工的な青。お花見とかお祭りとか、楽しい場所でも広げられるのに、事件の現場で何かを隠すときにも使われる。すごく面白いなって思います」。

 福岡さんは、数日前に発表されたノーベル生理学・医学賞について、受賞者のひとりは「クラミドモナス」という水中の微生物がどうして光のほうに泳いでいけるのかを研究した人だと紹介した。

 「太陽光線というのはいろんな色の光の束ですが、水の中では波長の関係で青い光が入ってくる。その微生物は、細胞の表面で青い光を感知して、青い方向に泳いでいけるんです」。ちょっと詩的な説明になってしまうけれど、と前置きして、福岡さんは言った。

 「だから私たちが青い海を見てきれいだと思うのは、生命にとって青い色というのがどうしても必要な色で、それが美しい色として見えたという歴史を受け継いでいるんですね」

 講演と対談は早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が主催し、700人が耳を傾けた。(編集委員・柏崎歓)=朝日新聞2026年10月28日掲載