ISBN: 9784787726216
発売⽇: 2026/08/12
サイズ: 13.3×19.4cm/328p
「雪でできた人」 [著]チェ・ウンミ
見慣れたはずの電線に目を凝らしてみれば、ありえない高電圧をかけられて震えている。本書には、そんな静かな緊迫感に満ちた短編の数々が収められている。
冒頭の「送る人」では、語り手の女性が、ママ友のジナさんとの関係を語っていく。一気に親しくなる二人だが、ネット掲示板での投稿を目にしたことで、語り手にはジナさんの本当の姿がわからなくなってしまう。そうして、夫たちが物語に顔を出さないまま、母親であることの重圧を背負ってもがく女性たちの姿が浮かび上がる。
家族に関する責任を母親が一身に背負うことのひずみ。その主題は、「ここに私たち向かい合い」での、主人公が石鹼(せっけん)とキャンドル作りの工房を開くも、新型コロナウイルスの流行が重なってしまう物語でも探求される。いつ自分の子どもが外の世界の餌食になるかわからない、そんな状況で互いを支えようとする女性たちの言葉からは、「私」の居場所はこの世界にあるのか、という問いがにじみ出す。
そして、女性が受ける暴力、なかでも幼少時に親族や親しい間柄の男性から受けた性暴力という主題が、複数の短編での核としてせり出してくる。表題作「雪でできた人」では、読み進めるにつれて登場人物たちの家族関係が整理されてくると、主人公の女性が子ども時代に受けた性暴力が、夫に理解されないまま小学生の娘の安全を気づかう心理に影を落としていることが見えてくる。
暴力の記憶は、物語になりきれないまま、自己に亀裂を走らせ続ける。暴力を受けた女性たちは、その出来事のあとに待っている、何かが崩壊していく時間を生きねばならない。その崩壊の感覚は、他の女性と共有できるのか。あるいは、それを抱えたまま孤立し、世界から消滅することを願うほかないのか。細部の描写にまで、そうした悲鳴が静かにこだましている。
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崔銀美 1978年韓国生まれの作家。本書の表題作で若い作家賞、『第九の波』で大山文学賞など、韓国で多くの受賞歴がある。
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橋本智保訳