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「B.C. 1177―古代グローバル文明の崩壊」書評 突然の文明崩壊、犯人は誰か?

評者: 山室恭子 / 朝⽇新聞掲載:2018年03月18日
B.C.1177 古代グローバル文明の崩壊 著者:エリック・H.クライン 出版社:筑摩書房 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784480858160
発売⽇: 2018/01/25
サイズ: 20cm/280,53p

B.C.1177―古代グローバル文明の崩壊 [著]エリック・H・クライン

 誰が青銅器文明を殺したのか?
 あまりにも突然であった。エーゲ海にきらめいたミュケナイ文明が、トルコの大地に咲いたヒッタイト文明が、母なるナイルのエジプト新王国が、キプロス・アッシリア・バビロニアと、後期青銅器文明の精華のことごとくが、いっせいに地上から消えた。紀元前1177年のこととエジプト王の碑文は示唆する。
 すべてが失われた。発掘された粘土板にぎっしり刻まれた公用アッカド語も、海底の沈没船にぎっしり積まれた銅のインゴットも、外交や商業で緊密に結ばれた地域間交流の賑(にぎ)わいを伝えてくれるのに、すべてが突然に失われてしまった。3世紀以上つづいた文明が数十年で滅び、つぎの鉄器時代まで数世紀の薄闇となる。人類が経験した初めての文明崩壊である。
 大破壊をもたらした犯人は誰か? 捜査線上に容疑者たちが浮かび上がる。
 容疑者A「地震」——ブルブルブル。たしかに連続発生して都市の壁をあちこち崩したさ。でも、文明をまるごと引っくり返すパワーなんて、とてもとても。
 容疑者B「気候変動」——いやあ、科学の力ってスゴいね。湖の底の花粉から干魃(かんばつ)の痕跡を見つけちゃうんだから。でも、この地域は干魃には鍛えられてるよ。
 容疑者C「内乱」——破壊された都市の跡から武器が見つからないから外敵でなく内乱? さあてねえ。
 容疑者D「海の民」——ししし! 本命のご登場?いいや、エジプト王の碑文にちょびっと痕跡があるだけだ。なんでも海賊のせいにされちゃァ大迷惑だ!!
 古代オリエント殺“文明”事件。じつは全員が犯人で、いくつもの要因が寄ってたかって、相互依存していた各地の文明たちを共倒れに追い込んだ、らしい。
 3千年の時を超えて届くメッセージがひとつ。文明は、ある日突然に滅びることがある。あたかも「殺された」かのように。犯人は、ひとりとは限らない。
    ◇
 Eric H.Cline 60年生まれ。歴史家、考古学者。米ジョージ・ワシントン大教授(古典学・人類学)。