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「昭和天皇の戦争」書評 天皇戦争の読み方説く

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2017年04月16日
昭和天皇の戦争 「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと 著者:山田 朗 出版社:岩波書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784000611770
発売⽇: 2017/01/27
サイズ: 20cm/303p

昭和天皇の戦争―「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと [著]山田朗

 「昭和天皇実録」(実録)は、「官」の編んだ「公式の記録」である。従って、「天皇=平和主義者」との特定の意図で記述されているとして、著者はとくに戦争に関する部分を取りあげて、どのような部分が割愛されているかを実証的に裏づけた。
 いうまでもなくこの実録のみでは昭和天皇の実像が確認できるわけではない。「民」の側もこれまで実証的に天皇の姿を記録してきたが、両論相俟(あいま)って、大元帥の天皇像に息吹が与えられる。昭和天皇は、日中戦争の初期は現地軍の行動を抑制し、事態の打開を図るとの記述が実録にはあるが、戦闘が本格化するや前言を翻して積極的作戦を促す。その面が「消されている」という。太平洋戦争下では、アッツ島の玉砕を契機に統帥部に強い口調で「決戦」を命じたことが、既存の史料で明らかだが、その記述はない。
 著者は実録記述の功罪を示し、読者に、天皇と戦争の読み方を説いている。