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山本貴光「文学問題(F+f)+」書評 漱石が考えたその先を探る

評者: 円城塔 / 朝⽇新聞掲載:2018年02月04日
文学問題〈F+f〉+ 著者:山本 貴光 出版社:幻戯書房 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784864881357
発売⽇: 2017/11/24
サイズ: 20cm/539,50p

文学問題(F+f)+ [著]山本貴光

文学とはなにかという問いはひどくむずかしい。
 読めばわかるという立場もあるが、皆の意見が一致するはずもない。
 あらゆる文字の並びは文学的なものであるという考え方があり、どんな文字の並びも文学的なものではありえないという考え方がありうる。そんな広大な領域を相手にするのは困難だ。
 文学なるものをひとりで日本に持ち帰ろうと決意した夏目漱石は、文学的な文章とは、読者の心を変化させるものだと考えた。
 認識があって心の動きがある。そういう仕組みの連なりとして文学なるものを考えようとし、「文学論」の名前でまとめた。
 評価は大きく分かれており、科学の真似事(まねごと)、当たり前のことを難しく書いている、何を書いているのかわからない等々言われる。
 3部よりなる本書の第1部はその「文学論」の肝の部分をとりだして、現代語訳して解説する。これで少なくとも漱石がどんなことを言おうとしていたのかはわかるようになっている。
 第2部は、第1部の立場から、古今東西の小説のうちいくつかを読み直してみる試みである。
 第3部では、未完に終わった「文学論」の続き、そうして発展の方向が探られていく。
 漱石の視点は、人間の認識とは、文学というものを可能としているこの世界とはという地点にまで及ぶ。
 当時先端の知見をもとに人の認識や文学の変化を考えようとした。
 漱石が小説を書いた期間はおよそ10年にすぎない。その間に小説史を駆け抜けるように、どれが代表作なのかもわからぬほどに多様な作品を残した。これは「文学論」的な大きな視座の実効性を示すものと考えてよいのではないかと思う。
 漱石の「文学論」が未完に終わったのは文学の変化には終わりがないからなのかもしれず、こうして「文学論」自体がつぎたされながら成長していくものだからなのかもしれない。
    ◇
 やまもと・たかみつ 71年生まれ。文筆家、ゲーム作家。『文体の科学』『世界が変わるプログラム入門』など。