最近、マスメディアで「マインドフルネス瞑想(めいそう)」という言葉を目にすることが増えてきた。約200カ国に2200万人の読者がいるという米誌タイムで2014年2月に「マインドフル革命」という特集が組まれ、その後を追うように日本でもさまざまな雑誌やTVで取り上げられている。こうしたブームといえるような状況には、日本マインドフルネス学会理事長として少し危惧を覚えている。
確かに13年のカナダ・マギル大学助教授のコウリーらの研究は、209の研究、1万2145人のデータを基にマインドフルネス瞑想が不安、抑うつ、ストレスの低減に有効であることを示している。しかしブームというものは実証研究が示している以上の成果を期待させ、その後に残るのは失望である。今、求められているのは、さらに地に足をつけた実証研究である。
科学に基づいて
マインドフルネス瞑想は仏教の瞑想法を源とするが、宗教とは一線を画し、科学的なエビデンス(証拠)に基づいて展開されている。『マインドフルネスストレス低減法』は、この分野のパイオニアであるカバットジン(マサチューセッツ大学医学部名誉教授)によるマインドフルネスについての解説と具体的な実践指導からなる。受講者とのやり取りも多く収められており、マインドフルネス瞑想についての理解を深め、人生にマインドフルネスを活(い)かしたいと思っている人にすぐに役立つ内容となっている。英語では内容がアップデートされた改訂版が出ており、邦訳が待たれる。またマインドフルネスに関する実証研究は、脳の構造と機能の変化に関するものも含めて、大谷彰『マインドフルネス入門講義』(金剛出版・3672円)に詳しい。
自他に思いやり
『仏教瞑想論』は仏教の瞑想法について、宗教学者が一般読者向けに平易な言葉でわかりやすく解説している良書である。瞑想の多くが止(サマタ)と観(ヴィパッサナー)という要素を含んでいるが、それぞれについて詳しく理解でき、マインドフルネス瞑想をはじめ、止観を中核とする瞑想法を適切に実践するのに参考になる。
さらに日本、ミャンマー、タイなどで実践されている瞑想も紹介されており、いくつかについては具体的な方法も記されているため、それらの異同について検討でき興味深い。日本の伝統的瞑想、座禅から学ぶことも多い。中野東禅『読む坐禅』(創元社・1512円)は、禅瞑想の目指す身心の寂静についてやさしく解説している。
ところで、マインドフルネス瞑想の指導で感じるのは、「瞑想」という言葉のイメージからか、心が無になり考えが浮かばなくなる方法であると誤解している人が多いことである。マインドフルネス瞑想は「気づき」を大切にする瞑想に分類され、五感を通して感覚が起こる時に気づき、自分の快・不快や価値観から反射的に反応する回路を弱め、覚めた意識で自分の行為を選ぶ回路を育てる。
この回路の育成には、自分と他者(さらには生きとし生けるもの)に慈しみの心をもつと意図することが有効であるという傍証がある。マインドフルネスを中核とする臨床プログラムでは、自他への思いやりを重視した指導がなされている。
『脳と瞑想』の第二部では、タイの瞑想指導者と脳外科医との対話を通して、気づきの瞑想がこうした回路を創るものであることを解説している。対話なので説明もわかりやすく、実体験から語られる話は心に残る。
瞑想を本当に知るには、書籍からの知識に加えて、良い指導者について実際に体験することが不可欠である=朝日新聞2017年7月9日掲載