イギリスのEU離脱、米国のトランプ政権誕生、ヘイトスピーチの横行……。それらの背景にある「反知性主義」と向き合った。
「自分が一番愚かな読者。その私に向けて、説明しようとしている」と語るように、回り道も恐れず、丁寧に論じた思想の書だ。
東京・山の手で育ち、東京大学に進学した自分自身も解剖台に載せた。筆致はおごりも虚飾もなく誠実だ。〈「自分の頭で考えたいことを考えるためにするのが勉強だ」ということが分かると、そこで初めて勉強が好きになった〉
米国の大統領選で、メディアの批判がトランプ支持者に届かなかったように「知性」と「反知性」の間には断絶が走る。断絶を超えるには、仕事の確保など格差の解消が不可欠で、知性の側が繰り出す言説の力は「微弱」だ。でも、その微弱な力を信じている。「だって私は言説の人ですもの」
反知性主義を読み解いていくなかでたどり着いたのは「不機嫌」「ムカつく」という感情だ。ムカつく人たちに納得してもらう言説を生み出さないと〈知性は顚覆(てんぷく)したままで終わり〉だと指摘した。
一方、「知性」と同居していたはずの「モラル」が失われていったとみる。政治の劣化も「恥を知らない」というモラルの問題だというのだ。加計学園問題、暴言疑惑の政治家、きちんと説明できない大臣……。「知性とモラルが分離している。恥ずかしくないの?と。書いていて気がついた。『あっこれだ』と」
「小説TRIPPER」誌に2015年から2年にわたって連載したものを新書にまとめた。すでに続編の連載も決まっている。テーマは「父権制の顚覆」だ。例えば、自民党と小池百合子・東京都知事との関係を、「夫」と夫に反発した「妻」と読み解く。
「自民党は基本的にオヤジ政党だから父権制の権化。『それって嫌よね』という家庭内離婚みたいなもの」。小池氏の人気の背景には、「そうよね」という中高年女性たちの共感があるとみる。
とにかく根気の良い人、と自己分析する作家。思考の旅は続く。
(文・赤田康和 写真・門間新弥)=朝日新聞2017年7月9日掲載
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