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五木寛之「孤独のすすめ」書評 老いの現実、肯定的な言葉で

孤独のすすめ―人生後半の生き方 [著]五木寛之

人生をシフトダウンせよ、孤独を楽しみ、気が滅入(めい)ったら、かみしめる様に回想せよ、そうすれば人とは愛すべき存在だとのあたたかな思いが心に戻ってくる……。
 そんなメッセージが発せられているこの『孤独のすすめ』が今、多くの人に読まれている。
 なにしろ、人数の一番多い団塊世代がついに七十代に突入したのだ。この世代は、あの五木寛之が言うのなら、今のこの私の老いの愁いを「孤独」とはっきり名付け、それを存分に楽しんで生きていこう、そんなふうに思うに違いないのだ。
 五木寛之は団塊世代がむさぼるように本を読んでいた二十代の前半に、三十代の若き小説家としてさっそうと登場してきた。当時は学生運動のさ中で、ロシア文学は若者の必読の書だった。ロシア革命の詩人エセーニンの詩集などがよく読まれたりもしていた。そんな独特な時代背景の中で五木は厳しい言論弾圧の中にあった旧ソ連を舞台にした『蒼(あお)ざめた馬を見よ』で直木賞をとった。
 彼は常に時代と共にあった作家だった。
 運動の季節を過ぎ、いきどころのなくなった若者の気分を共有するかのように「デラシネ」という言葉をはやらせたのも彼。そして貧困から這(は)い上がり、自立していく若者の大河小説『青春の門』を書き始めた。
 当時若者だった世代は、戦後の貧しさと繁栄に翻弄(ほんろう)されながらも懸命に生き抜き、自分たちなりの新しい価値観を作り上げてきた人たちでもあるのだ。
 けれど、今、「高齢者は社会のお荷物」という眼差(まなざ)しがはびこる中で高齢期を迎えることとなり、どう生きるべきか戸惑っている。そんな世代に、この本は「老いの現実」を肯定的に受け止める言葉を贈ってくれる。知的な裏付けによって腑(ふ)に落ちる言葉にして差し出してくれる。
 新しい高齢者の生き方をなんとか切り拓(ひら)いて生きたい、と願う高齢世代には、かけがえのない本なのだと思う。
 久田恵(ノンフィクション作家)
     ◇
 中公新書ラクレ・799円=11刷17万部 17年7月刊行。60〜70代が中心。想定は男性読者だったが40、50代や女性にも広がっている。生きづらい中高年が増えているのかもしれない。=朝日新聞2017年10月22日掲載