- 『西東三鬼全句集』 角川ソフィア文庫 1339円
- 『七十句/八十八句』 丸谷才一著 講談社文芸文庫 1512円
- 『ウホッホ探険隊』 干刈あがた著 河出文庫 540円
(1)は、「十七文字の魔術師」と称された新興俳句の旗手の全句集。貴重な自句自解(第2次世界大戦前後の生活と心象を綴〈つづ〉り秀逸)を収録した完全版。「水枕ガバリと寒い海がある」「中年や遠くみのれる夜の桃」など鮮やかなイメージの衝突と句の底から光りだすエロスが魅力的だ。
(2)は、古希と米寿を記念して編まれた句集2冊に、岡野弘彦と長谷川櫂と巻いた歌仙と、岡野と長谷川の語り下ろし対談を併録。丸谷がここまで伸びやかに愉(たの)しく俳句を作っていたとは。滑稽に遊び、人情の機微を捉え、さらりと自らをくすぐる。死が目前の最晩年の心境も味わい深い。
(3)は、1984年に刊行された小説の復刊。“離婚ていう、日本ではまだ未知の領域を探険する”ひとつの家族の物語であるが、34年たってもいまだに古びず、むしろ心をふるわせて読むのは、別れて生きていくことの辛さ、不安、寂しさをユーモアに変えて丁寧に掬(すく)いあげているからである。こんなに面白く、切なく、愛嬌(あいきょう)豊かな小説は珍しいだろう。=朝日新聞2018年01月21日掲載