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幅広い思考で知的興奮を誘う「読むこと考えること」 山﨑修平が薦める文庫この新刊!

  1. 『読むこと考えること』 養老孟司著 双葉文庫 858円
  2. 『オン・ザ・プラネット』 島口大樹著 講談社文庫 770円
  3. 『近現代短歌』 穂村弘選 河出文庫 770円

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 読むことは、自身を更新してゆく。現代という誰しもが正解を知り得ない混沌(こんとん)をゆく羅針盤に、ときに読書はなるだろう。

 (1)は、解剖学者として、また洒脱(しゃだつ)なエッセイでも知られる作者による、題名通り読むことと考えることについての一冊。とかく文系・理系と私たちは受験勉強そのままに物事を分別してしまいがちであるが、文理の垣根を越えた、知識を運用する連綿とした思考にこそ物事の本質はある。漱石からドーパミンまで、幅広く書き綴(つづ)った本書に、知的興奮が収まらない。作者と対話するように読み進めたい一冊である。

 (2)は、二〇二一年に群像新人文学賞を受賞しデビューした、新進気鋭の作家による作品。現代の等身大の若者を描く精緻(せいち)な描写は、小説という表現が、常に日常と地続きのものであることを示す。地の文と会話文の織り成すリズムに、複層的な視点を持つ短編映画を観(み)終わったようなカタルシスがある。特に新生活をこれから迎える期待と不安を綯交(ないま)ぜに抱えた人には、自身の内面を問う一冊としたい。

 (3)は、現代短歌を牽引(けんいん)する歌人による近現代短歌のアンソロジー。ポップな作風で知られる選者の穂村弘であるが、本作に収められた短歌は、斎藤茂吉や土屋文明など、重厚な文語体によるものも目立つ。選者の読者のみならず、近現代短歌についてまず初めの一冊として、本書を薦めたい。

 読むこと、考えることが、現代への批評となり、やがて日々を生き抜くことに繫(つな)がってゆく。三冊と共に春を迎えたい。=朝日新聞2026年2月28日掲載