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「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の圧巻の展開を味わおう! 吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(上・下) アンディ・ウィアー著 小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF 各1650円
  2. 『爆発物処理班の遭遇したスピン』 佐藤究著 講談社文庫 957円
  3. 『おふとんの外は危険』 キム・イファン著 関谷敦子訳 竹書房文庫 1760円

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 三月に実写映画版が日米同時公開されることも話題の(1)は、主人公が記憶喪失状態で目を覚ます場面から始まる。本を開いた瞬間真っ白で何もない世界に叩(たた)き落とされ、一行一行読み進めるたびに謎が少しずつ解き明かされていく。それだけでも十分に面白かったのに、上巻の真ん中で主人公自身も「うっそだろう!」と叫ぶ展開が勃発。SF度が高まると共に、エンターテインメント濃度も急上昇を果たす。事前情報はできるだけ入れずに読んでほしいが……これ以外ない、と確信させるラストがとにかく圧巻だ。

 (2)はこれまでミステリーの分野で高い評価を集めてきた著者が、SFもイケる、と証明してみせた短編集。量子力学を題材にした表題作も素晴らしいが、「ジェリーウォーカー」に撃ち抜かれた。オーストラリア人CGクリエイターのピート・スタニックは、クリーチャー(怪物)のデザイナーとして世界的知名度を誇る。二〇代後半までは凡庸だった青年がわずか数年で成功者となったのは何故か? 人間にとっての善悪や有害性の価値判断は、人間以外の視点に立ってみるとガラッと変わる、という着想が効いている。

 (3)は韓国人作家による奇想に彩られた作品集。全十二編のうちいくつかは人間ではないモノへの興味と関心が物語のエンジンとなっており、そのモノを通して人間を考えるというテーマが頻出する。

 未知との遭遇(=コンタクト)を描くSFはいつの時代も、人間とは何かについて描いてきたのだ。=朝日新聞2026年1月31日掲載