- 『長女たち』 篠田節子著 新潮文庫 724円
- 『この世は落語』 中野翠著 ちくま文庫 950円
- 『東京23話』 山内マリコ著 ポプラ文庫 691円
澄んだ空の下で、この世に生きるということを多角的に考えるきっかけになる三冊を紹介したい。三つの短編からなる(1)は、主人公がいずれも三十代後半から四十代の、年老いた親が心に重くのしかかる「長女たち」である。親の期待を背負って賢く真面目に生きてきた彼女たちが抱える苦しみは、時にホラーの粋に達するが、起こりうるシビアな現実なのだ。各人が無意識のうちに放つエゴイズムについて、長く考えてしまった。
(2)は、落語ファンの著者が、数々の噺(はなし)の中に描かれた江戸の風情を噛(か)み砕き、現代風俗と結びつけた痛快かつ粋なエッセー集。色恋や欲望、自意識や情念等(など)、今に通じる人間の心を笑い話として反芻(はんすう)しつつ、時に深く感じ入る。
東京の「23区」が、それぞれ一人称で小説を語りだす(3)。各区のイメージに合わせて絶妙に使い分けられる文体が見所(みどころ)。かつてそこに住んでいた著名人の生活だったり、高層ビルたちの胸の内だったり、団地に込められた夢だったり、街に流れる歴史を斬新な視点で味わえる。=朝日新聞2017年10月15日