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「熊と踊れ」書評 暴力の絆、強盗犯の実相を描く

評者: 市田隆 / 朝⽇新聞掲載:2016年11月06日
熊と踊れ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 著者:アンデシュ・ルースルンド 出版社:早川書房 ジャンル:SF・ミステリー・ホラー

ISBN: 9784151821516
発売⽇: 2016/09/08
サイズ: 16cm/561p

熊と踊れ(上・下) [著]A・ルースルンド、S・トゥンベリ

 スウェーデンで実際にあった連続強盗事件に基づくこの犯罪小説は、ミステリーのだいご味を堪能できるだけでなく、犯罪者たちの真の姿を際立たせることに成功した作品だ。
 綿密な計画と統率のとれた行動で銀行強盗を繰り返す若い3兄弟、それを追う警察の攻防が物語の中心。ささいなミスが失敗につながりかねない犯行現場で揺れ動く犯人の感情、巻き込まれた市民の恐怖まで克明に描き出し、読んでいてその場にいるような錯覚を感じた。後手に回る警察だが、防犯カメラに映った犯人の一瞬の動きから手がかりをつかみ、その攻防から最後まで目が離せない。
 事件の経過とともに3兄弟の生い立ちがたどられ、父親イヴァンとの関係が焦点になってくる。彼は家族の結束を求めるも、抑制が利かない、過剰な暴力行為が災いして妻や息子たちから見放されることになる。
 成長した3兄弟は父親と距離を置くが、その強盗の手口は、父親が昔教えた「熊のダンス」という、大きな敵にヒットアンドアウェーを重ねるけんか技とだぶる。兄弟を束ねてきた長男レオは暴力をコントロールできる冷静さがあったのに、捕まるリスクが増しても強盗をやめられず、弟から「親父(おやじ)そっくりだ」となじられてしまう。
 無意識のうちに暴力の絆でつながり、悲劇に突き進む家族を重層的に描いた。小説のモデルになったのは、1990年代初頭にスウェーデンで起きた「軍人ギャング」と呼ばれる一団の連続強盗事件。著者の一人は、強盗に加わらなかった、犯人たちの実の兄弟という事情まであり、報道や捜査、裁判では最深部までたどりつくことが難しい犯罪者の実相を描き出せたことがうなずける。
 良質の北欧ミステリーが数多く邦訳されている中で、本作はミステリーの枠にとどまらず、ノンフィクション・ノベルの傑作として歴史に名を残すだろうと言っても過言ではない。
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 Anders Roslund 61年生まれ。Stefan Thunberg 68年生まれ。2人ともスウェーデンの作家。