しばしば指摘されるように、少年誌で熱血スポ根マンガが盛り上がった1970年前後は手塚治虫の暗黒時代だった。「マンガの神様」とうたわれた手塚も決して万能だったわけではなく、少年誌の王道であるスポーツマンガが描けないという弱点を持つ。当時の手塚は「時代遅れの大御所」と見られ、特に少年誌からは声がかからなくなっていたという。
ところが高度経済成長期が終わった辺りから、手塚は「週刊少年チャンピオン」の『ブラック・ジャック』、そして「週刊少年マガジン」の『三つ目がとおる』で第一線の少年マンガ家として復活をはたす。知名度は前者のほうが上だが、三つ目族の生き残り・写楽保介が活躍する後者も大ヒット。この2作で1977年に第1回講談社漫画賞を受賞している。
その『三つ目がとおる』の現代版が、昨年から「月刊チャンピオンRED」で始まった! 藤澤勇希脚本、柚木N’作画の『三つ目黙示録~悪魔王子シャラク~』という作品だ。中学生だった写楽と和登サンは高校生に、三つ目を封じるバンソウコウは暗証番号で外れるカツラに変わった。このように設定の細部やストーリーが原作と異なる場合、リメークではなく、リブート(再起動)と呼ぶらしい。
写楽は切れ長のクールな目になり、人を殺すシーンは原作よりも生々しくリアルに。巨乳メガネっ娘で考古学マニアの「ハトムネ先輩」こと鳩村など、オリジナルのキャラクターも登場する。青年誌での連載に加え、作画がエロ出身の柚木N’ということで、毎回のように和登サンやハトムネ先輩のサービスカットが描かれる。
一方、三つ目を隠して幼児化した写楽の可愛らしさ、三つ目のときは現代文明を滅ぼそうと企むダーティーヒーローになるところなど、根幹となる設定には忠実。ボーイッシュなのに母性的な和登サンや、三つ目の写楽に古代文字を解読させようとする須武田博士は原作そのままだし、第4話「夢の揺りかご」は原作の「魔法産院」と「わんわん物語」へのオマージュになっている。
マンガでも映画でも、誰もが知る名作のリメークやリブートは酷評されがちだが、本作はリアルタイムで原作を読んだ世代にも受け入れやすい。現代的なアレンジを加えながらも、原作に対するリスペクトと愛情がしっかり感じられるからだろう。=朝日新聞2017年5月17日