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ツイッター発の漫画が続々刊行 投稿から数時間で話題作に

ツイッターの投稿から書籍化された単行本たち。その話題性を強調する帯が目立つ。sugiya「私たちは付き合っていない」、おのでらさん「コミケ童話全集」、もちオーレ「出会い系サイトで妹と出会う話」(いずれもKADOKAWA刊)

 このところ、書店のマンガ単行本売り場で新刊の帯を眺めていると、こんなアオリ文句が目につく。
 「Twitterで話題の4ページ漫画がついにコミックス化!」(sugiya「私たちは付き合っていない」)、「Twitterで人気絶頂!! 累計閲覧数8000万突破」(おのでらさん「コミケ童話全集」)
 いずれも、投稿型SNSである「ツイッター」で話題となったマンガが単行本化されたことを示す帯たちだ。
 インターネットがマンガの発表の場として定着していることは、いまさら言うまでもない。しかし投稿サイトやウェブマガジンで発表されるマンガと比べても、このところ伸長著しい「ツイッター発」のマンガは、インターネットがマンガ周辺のメディアにもたらす変化を、より先鋭的に示していると言えるだろう。その変化とは、これまでとは異なる「速度」感覚だ。

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 友人とのやりとりをきっかけになにげなく描いた1本の4コママンガが、ツイッターへの投稿からわずか数時間で何万人もの間に広まり、さらにその1週間後には書籍化まで決定したというカメントツの「こぐまのケーキ屋さん」は、ツイッター発マンガに特有の目まぐるしい「速度」感覚を知るのに最適の例だ。各ユーザーが中継点となり、他者の投稿を引用し拡散する「リツイート」という仕組みが、人々の反応の連鎖的な広がりを即時に目に見える形にし、「これがいま、話題になっている作品」という認識が人々の間に広がっていく時間が、極めて短く実感されるようになった。
 描き手側も、自身の作品に対するレスポンスを即時に実感できるようになっている。「こぐまのケーキ屋さん」や冒頭で触れたようなツイッター発のマンガの大部分は、もともと単発の投稿から始まったものだ。なにげなく投稿された断片的な作品群が、ツイッターというプラットフォームに根ざした即時的な反応を受けて、あるものはシリーズ化され、あるものはあまり反応を得られないまま流れ去っていく。マンガの生産と享受の関係をめぐる、新たな速度とリズムの感覚がそこに見いだせるだろう。

週刊・月刊で作品育む雑誌支持も根強く

 それは1960年前後に登場した週刊マンガ雑誌が作り出した、週刻みで展開される長大な物語――「あしたのジョー」や「ベルサイユのばら」のような――との並走という経験とはまた異なる、流動的で不規則なものでもある。
 こうしてツイッター発マンガの隆盛が話題になると、同時に議論になるのが、マンガ商業誌の存在意義だ。描き手にとっては、雑誌連載を介さずとも、ツイッターで「バズる(多くの反応を得る)」ことで単行本化されるという新たな道筋が示され、出版社や編集者にとっては、一定の人気や話題性が保証された作品を手にするチャンスが生じた。これに、雑誌連載では読まずに単行本化を待つという読者の購買行動のシフトが重なって、マンガ雑誌の存在意義は低下しつつある、と見る向きもあるだろう。
 しかし、ツイッターで一つの投稿に添付できる画像は最大4枚。4ページ以内という制約下で、散発的な物語へ向かいやすいツイッター発マンガに対して、雑誌連載のマンガが週刻み、月刻みで積み上げていく長大な物語への欲求は、今もなお根強い。
 また、特定企業のプラットフォームへの過度な依存は、性表現をはじめとする特定の表現への恣意(しい)的な規制や、表現の場としての脆弱(ぜいじゃく)性にもつながる。次々と目まぐるしく浮かび上がってくる話題作を「採集」する場としてのツイッターに対し、作品や作家を育て上げる「農耕」的なマンガ生産の場として、雑誌の存在意義はまだあるはずだ。マンガという表現へのこだわりやポリシーを、雑誌が保ち続ける限り、ではあるが。=朝日新聞2017年2月23日掲載