「外道クライマー」書評 生と死の境界線に立つ
評者: 市田隆
/ 朝⽇新聞掲載:2016年05月22日
外道クライマー
著者:宮城 公博
出版社:集英社インターナショナル
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784797673173
発売⽇: 2016/03/25
サイズ: 20cm/277p
外道クライマー [著]宮城公博
本書は、谷間の沢筋をたどる「沢登り」に熱中する登山家の手記だ。著者は、「探検的な要素を含んだ」沢登りにこだわり、国内外の秘境に分け入っていく。2012年には立ち入り禁止のご神体「那智の滝」(和歌山県)に登ろうとして警察に逮捕され、職を失った。気落ちしたが、再び沢登りの挑戦を続ける。
最も多くのページが割かれた「タイのジャングル四六日間の沢登り」が面白い。密林の豪雨に悩まされ、激流に巻き込まれて遭難しそうになるなどトラブル続き。同行するパートナーとの仲も決裂寸前。それでも、ユーモアある語り口を忘れず、苦境を乗り越えてしまうしぶとさがある。
日本に残された秘境の滝の冬季登攀(とうはん)では、三回に一回は死ぬという確率でも、「生と死の境界線に立つことによって生の実感が湧く」。その言葉がもつパワーに圧倒された。
日常生活の些事(さじ)でくよくよするのがバカバカしくなり、元気が湧いてきた。