クロード・レヴィ=ストロース「大山猫の物語」書評 「双子」というモチーフ
評者: 杉田敦
/ 朝⽇新聞掲載:2016年05月15日
大山猫の物語
著者:クロード・レヴィ=ストロース
出版社:みすず書房
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784622079125
発売⽇: 2016/03/11
サイズ: 20cm/340,41p
大山猫の物語 [著]クロード・レヴィ=ストロース
オオヤマネコとコヨーテは双子で、元々はよく似ていた。しかし、「彼らは、互いに分化する道を選んだ。つまりオオヤマネコはコヨーテの鼻面と足を引き伸ばし、コヨーテはオオヤマネコの鼻面と尾を縮めたのである」。南北アメリカ・インディアンの諸神話に形を変えながら繰り返し登場する「双子」というモチーフは、対比によって考える、彼らの二分法的な体系を何よりも明確に示している。
双子は他の多くの地域の神話にも見られるが、そこで双子の同一性が注目されるのに対し、インディアン神話は両者の差異を強調する。植民者たる白人も、彼らと似ても似つかないからこそ、双子の片割れとして、彼らの思考体系の中に取り込まれるのである。
かくしてインディアンたちは白人を「客人」としてもてなしたが、白人たちはそれにどう応えたか。西洋に自省を迫る人類学者レヴィ=ストロースの主題が、最晩年のこの小品から、はっきりと見えてくる。