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能の研究書が家に積み上がってます  水曜日のカンパネラ・コムアイさん「猫は抱くもの」に出演 

文:永井美帆、写真:樋口涼

 独創的な楽曲とパフォーマンスで注目を集める音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のボーカル、コムアイさんが23日公開の「猫は抱くもの」で映画初出演を果たす。原作は、人間と猫の絆を描いた大山淳子の同名小説。ライブでは神輿(みこし)に乗ったり、鹿を解体したりといった奇抜な演出が話題になるコムアイさんだが、好きな本を尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 「家に一番多いのは能の本。卒論で能について書いたので、めちゃくちゃ増えました。能の起源や能楽師の動きについて書かれた研究書が積み上がっています」

 一番のお気に入りを尋ねると、スマホで検索しながら記憶をたどること数分。「これです!」と「写真で見る 能の扮装」(藤城継夫著、わんや書店)を教えてくれた。版元は東京・神田神保町にある江戸時代創業の能楽専門出版社で、初版は1962年。94年発行の8版が今も手に入る。

 「宝生流の能装束について、登場人物ごとに詳しく解説していて、写真や挿絵を眺めているだけでも満足できます。能を見るようになったのは大人になってから。歌舞伎は人の生き生きとした姿を見せるけど、能は枯れた姿や内面を表現している。そこにビビッときました」

 コムアイさん自身もテレビドラマに出演するなど、演技の世界へ活躍の場を広げている。映画初出演作「猫は抱くもの」は、「グーグーだって猫である」などの「猫映画」を手がけてきた犬童一心監督が、人間が猫を演じるという大胆なアイデアで映像化した。

 物語は、なりたい自分になれていない女性が主人公。元アイドルで妄想癖のあるスーパーの店員、沙織(沢尻エリカ)と、彼女の飼い猫で自分を人間だと思い込んでいる良男(吉沢亮)を中心に、実景と舞台上のシーンを行き来しながら進む。犬童監督が「実景=リアル、舞台=妄想という分かりやすい法則は設けなかった」と言うように、見る側はその境界が分からなくなり、映画の世界に引き込まれていく。

 コムアイさん演じるキイロは、「ゴッホ」と呼ばれる売れない画家(峯田和伸)に飼われていた三毛猫。キイロはゴッホに一途な愛情を注ぐ。

 「1年以上前に監督から手紙と絵コンテを頂いたんです。キイロが持つ柔軟さをコムアイさんに演じて欲しいって書かれていて。脚本を読む前に出演を即決しました」

©2018『猫は抱くもの』製作委員会

 撮影中は犬童監督と映画談議で盛り上がった。

 「監督が影響を受けたっていう作品のDVDを借りて、見て、感想を話し合う。それを何度も繰り返しました。監督というより、映画部の先輩っていう感じでしたね」

 劇中の音楽も「水曜日のカンパネラ」として担当した。「出演者だけど、裏方でもあって、不思議な立場でした。役者は与えられた環境で、どれだけ自分の色を出せるかだと思うんです。でも、映画音楽は『こうしたらもっと作品が良くなるな』ってディレクター的な目線で作品に関わっていける。そうじゃないと、こんなに監督と直接話すこともなかったかもしれないです」

 しかし、撮影と同時進行の音楽制作は「割とギリギリ」。後半はスタジオ近くの知人の家に泊まり込んでの徹夜作業が続いた。

 「その家の中庭に、どこかの家の子だと思うんですけど、大きな猫がよく寝ていたんです。癒やされていました」

 そうして出来上がった「キイロのうた」をコムアイさん演じる三毛猫キイロが歌い、作品のクライマックスを盛り上げる。

 「何万年かまた先で 惑星の軌道が重なる……」。歌詞は、人の出会いを惑星の軌道に例えて書いたという。

 「大切な人や物と離ればなれになっても、何十年先か、死んだ後か分からないけど、縁があれば必ずまた会える。私も、7年前に亡くなった母親と、また別の姿になって出会えるかもしれないって思うんです。誰もが固執しているものをそっと手放せるようにと、思いを込めました」

 曲だけでなく、作品の各所でアクセントになっている効果音も手がけた。

 「『ヒュルル~』とか色々な素材を肉声で録音して、それをもとに効果音を作りました。監督は、音楽も演技も『好きなようにやって』と任せてくれていたので、メンバーとあれこれ話しながら自由にできました」

 様々な場所で受けた刺激は、意外なところでつながっているという。

 「このあいだのツアーでステージから引き揚げる時、なぜかゆっくり歩くようにしていたんです。無意識だったんですけど。最近久しぶりに能を見たら、『あ、同じ動きだ!』って。まさか私のライブが能の影響を受けているなんて。誰も気づかないと思います」