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映画「ゴールド・ボーイ」主演・岡田将生さんインタビュー 狂気の殺人犯を生んだ背景、思いめぐらせて

岡田将生さん=慎芝賢撮影

本を読んで感じた問題提議

――中国では原作がベストセラーに、ドラマも「隐秘的角落」のタイトルで大ヒットした作品ですが、今回の映画化にあたって意識した点はありますか。

 全部で12話あるドラマと、約2時間の映画とでは描き方が違うと思ったので、ドラマはあえて1話しか見ていません。そこからは自分なりの解釈でこの映画を作っていこうと思っていました。

――原作と映画の台本から、どんなことを考えて映画作りに臨んだのでしょうか。

 原作は上下巻ある長編小説なので、これを2時間にまとめるのはすごく大変だなということと、脚本家の港(岳彦)さんが原作をどういう風にとらえて脚本を書かれたんだろうということをずっと考えていました。この作品はエンターテインメントではありますが、見る人に対してのメッセージがとても込められていて、僕が演じた昇が「なぜこんな狂気的な殺意を持った人間になってしまったのか」ということをぜひ見てくださる皆さんにも考えてほしいなと思いました。

 彼の「狂気的な殺意」が先天的なものなのか後天的なのかということもありますが「なぜこういう子が生まれて、こんな大人になってしまったんだ」という問題提議のようなものが、台本を読んでいて特に伝わってきた部分でした。それをエンターテインメントに昇華していくのは大変なことですが、そこを軸にして原作と台本と向き合っていました。

――時に感情を爆発しながらも、至って冷静に犯行を実行する昇と向き合うには、ご自身もかなり消耗したのでは?

 昇の育った環境や心に抱えているもの、社会に対しての怒りなどを考えていると、台本を読んでいてもずっとモヤモヤしていましたし、その状態を現場でずっと維持するのは演じる上ですごく体力を消耗するだろうなと思っていました。ただ、この物語の主軸は何と言っても子供たち。これからの彼らにすごく期待をしていて、作品を通してたくさんの人たちに見てもらって、タイトルの通り彼らが輝いてほしいなという気持ちが強かったです。

 僕が10代の頃も、見守りながら育ててくださった先輩方がたくさんいたので、自分にもそういうターンが回ってきたんだなという思いもありました。いつもみたいにがむしゃらに作品と向き合うのではなく、今回はいろいろな責任を背負って、作品に取り組もうと思っていました。

役作りで毎回意識する「目」

――役によって毎回アプローチはどのように?

 台本を読んだ時の印象も含め、割と感性的な部分が多いのですが、一番大切にしているのは「目」ですね。毎回「この役はこういう風にしよう」というのは台本を読んでいる時から頭にあります。本当は俯瞰で読まなければいけないんですけど、役目線で読んでいると「こういう感じで、ああなって」と考えながら読んでしまうクセがあるんです。

――時々、昇が冷徹な眼差しを向けるシーンはゾクリとしました。今回の昇でいうと、どんな目を意識したのでしょう。

 言葉で説明するのが難しいので映画を見ていただければと思うのですが、自分でも「こんな目をしていたんだ」と思うくらい驚きました。特に子供たちとのシーンは意識してやっていたので、監督の撮りたい画に対して効果的なお芝居と照らし合わせながら、自分の中で割と細かく考えていました。

(C)2024 GOLD BOY

「なぜ殺さなかったのか」答えは

――犯行現場を目撃され、証拠映像を元に昇を脅迫する中学生3人とのだまし合いや頭脳戦は、見ていてハラハラしました。

 子供たちが何をしてくるか分からなかったので「どういうスタンスで向き合ってくるんだろう」と、毎日現場で会うのが楽しみでした。あとは演じていく上で「いつこいつらを殺してやろう」という心構えでいました。多分、昇が彼らを殺害できるタイミングはたくさんあったはずなんです。それなのに「じゃあ、なぜ殺さなかったのか」と考えるのが面白いところで、最初に台本を読んだときはそこに引っかかっていたのですけど、その引っかかりを楽しんでやった方が、見ている人たちもきっとまた違う引っかかり方が生まれると思いました。

――「なぜすぐに殺さなかったのか」も含め、昇という人物をつかむ答えは出ましたか。

 それは見てくださったお客さんの方々に考えてほしいと思います。昇と自分を照らし合わすことは全くできなかったですが、生まれ育った環境によっていろいろな人間性が生まれてしまうということを、今回の役を通してより考えさせられました。元々関心があった社会に対してもより敏感になり、今の日本や世界で何が起きているのかを考えるきっかけになりました。

――朝陽と昇はどこか「表裏一体」のように感じたのですが、昇にとって朝陽はどんな存在だったと思いますか。

 僕も昇は朝陽を自分自身だと思っていて「朝陽だからすぐ殺そうとしなかったんだろうな」と思うんです。演じていて、朝陽と昔の自分を照らし合わせている感覚もあったし、彼と対峙するとよりそう感じる瞬間がありました。そこが「なぜ子供たちをすぐ殺さなかったのか」ということにもつながっているんじゃないかと思います。

――映画を見終わった日から「この物語に何か救いや希望、望みはあったのだろうか」ということを考えています。岡田さんはこの作品を映画化する意義をどうとらえていますか?

「エンターテインメント」と謳っているものの、この作品は問いかけてくるものが多くて、「なぜこういう人間が生まれてしまったのか」ということの最大の原因は何なのか。社会的なことや生まれ育った環境も含め、そういう問題を一から考えるきっかけになってほしいなという思いがありました。

 出会う人や他人からもらうもので人格や「人間」が形成されていく部分もあるじゃないですか。その形成されていく部分を考えていくのが今回の昇という役に関してはすごく面白くて、「昇は朝陽と真逆な人生だったんじゃないかな」とか、逆に「似たところがあったかも」と、照らし合わせるのも楽しかったです。他者から受ける影響でこんなにも人って変わるんだと思ったので、言い方が合っているかは分かりませんが、「これから出会う人」に対しての希望は少しあるのかなと思います。

小説は新しい発見と人間が見える

――岡田さんはサスペンスやダークミステリー作品を普段から読みますか?

 読書が好きなので、サスペンスなどもよく読みます。夢中になって読んでいると「もう夕方になっちゃった」と時間を忘れさせてくれるんです 。そういう日があると「なんていい1日なんだ!」と思うし、そういう本やドラマ、映画に出会えると幸せだなと思います。手に取る本は、誰かにおすすめしてもらったり、本屋さんでたまたま目に入ったものを買いあさったりしています。本も出会いですよね。

――ご自身のInstagramのストーリーズで、読んだ本や気になる作品をあげていますよね。以前紹介された高野和明さんの『踏切の幽霊』が気になって早速読み始めました。

 なかなか分厚いのでページをめくる手が少し遅くなってしまうかもしれないけど、おすすめです 。僕は高野さんの描き方がすごく好きで、中でも『ジェノサイド』が大好きなので、そちらもぜひ読んでほしいです。「なんだ、この世界は? どういう構想で書き始めたんだろう」と夢中になって読みました。

――ミステリーやサスペンス作品のどんなところに面白さを感じますか?

「こんな裏切りがあるのか」と、自分の想像を超えてくるストーリーや人間性に惹かれます。 映像作品の中には、ちょっと予想内の範疇というか「こうなるだろうな」みたいに見えてしまうものもあるんですけど、小説はページをめくるたびに新しい発見と人間が見えてくるのが好きなんです。この映画もネタバレになるので詳しいことは言えませんが、僕は結構驚いたところがあって「普通だったらこうなるだろうな」というところが、そうはいかないというか。この裏切りはすごく意味もあるし、自分の中での見方も広がったので、これからもそういう作品との出会いがあったらいいなと思っています。