作・演出する劇団「ナイロン100℃」は、やりとりのおかしさに笑いがこみ上げ、人の存在の危うさにどきりとさせられる舞台で知られる。それは、戯曲として読んでもおもしろい。
再演を機に出版された「百年の秘密」。軸となるのはティルダとコナという女性同士の友情だ。12歳から78歳、さらに死後まで、二人と家族の断片的スケッチが、時代を行きつ戻りつしながら展開し、壮大な年代記になっていく。徐々に明らかになる秘密や関係の変化、伏線も含め計算し尽くされた巧みな構成と思ったが、6年前の初演の際、本番ぎりぎりで書き上げたものなのだという。
「新作はいつもそうですが、初めて最後まで通せたのは公演初日みたいな感じで、火事場のバカ力で完成させたような」
東日本大震災から1年という時期だった。舞台の中心で登場人物を見守る1本のニレの大木や、劇中で解説役も担うティルダの家の女中が、悲惨な場面を前に観客に語りかける「しかしながら、この日だけがお二人の人生だったわけではございません」という言葉など、読んでいても震災のことが思い浮かぶ。やはり、影響を受けたという。
「津波の犠牲者の人生をたどる番組を見ていて、希望にもえていた人生が突如暗転したと強調されるんですが、あまりに残酷だなと。人生をもっと肯定したい、こういう形で終わったからひどい、ではなく、笑っていた瞬間、幸せだった瞬間をクローズアップしていきたいと」
作品では、それぞれの登場人物にかけがえのない貴重な瞬間が訪れる。舞台なら一瞬だが、戯曲なら読み返し、見逃すことなく味わうことができる。
「戯曲って小難しく感じると思うんですけど、読み方が分かれば楽しい。せりふだけですから、小説よりも分かりやすいと言えば分かりやすいですよね。俳優を通していない分、想像する余地も大きいですし」
再演は7日から東京・下北沢の本多劇場で始まり、兵庫、愛知、長野の3県を回る。戯曲を読んだ後、想像をいっぱいに膨らませて舞台を見た。だが、それでも発見があり、また戯曲を読みたくなった。
(文・星賀亨弘 写真・飯塚悟)=朝日新聞2018年4月21日掲載
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