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「外交ドキュメント—歴史認識」書評 将来語る前に顧みるべき過去

評者: 吉岡桂子 / 朝⽇新聞掲載:2015年03月01日
外交ドキュメント歴史認識 (岩波新書 新赤版) 著者:服部 龍二 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784004315278
発売⽇:
サイズ: 18cm/251p

外交ドキュメント—歴史認識 [著]服部龍二

 本書は、歴史教科書、靖国神社の参拝や従軍慰安婦、河野談話や村山談話などの「歴史問題」について、日本外交の視点から、政策の決定過程をたどる。1980年代以降の中国や韓国との関係を中心に振り返り、共有できる議論の土台を作ろうとしている。
 首相の名前を冠にした「談話」も、本人の熱意に牽引(けんいん)されてはいるが、個人の心情の表現ではない。「村山談話」の経緯からは、政治家や官僚など多くの意見から練り上げられていることが分かる。ただ、「対外関係における言葉の重みを政策に活(い)かした」成功例とはいえ、国会で審議もせず、国家の見解として国際的に大きな影響力を持ちえてしまう危うさも感じる。
 戦後70年にあわせて安倍晋三首相が出す「安倍談話」に注目が集まる。「歴史認識」は外交の利害調整でもあるだけに、片方の完勝は難しいと指摘する。提言は書き込まれていないものの、将来を語る前に顧みるべき過去が記録されている。
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 岩波新書・886円