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実はボツ作品だった  柴田ケイコさん「おいしそうなしろくま」

文:加藤千絵、写真:斉藤順子

――「たべものの なかに はいってみたら、どんなかんじかな?」。「くいしんぼうのしろくま」が、たまごやきにスパゲッティ、パンといろんなメニューの中に入りこむ『おいしそうなしろくま』。食べ物のほかほか、ふわふわ感が伝わってくる作品は、発売から1年4カ月でシリーズ第3弾が出るほどの人気に。作者の柴田ケイコさんは絵本2作目ながら、早くも人気作家の仲間入りを果たした。

 最初の『めがねこ』は猫のめがね屋さんのお話なんですが、そのほかにもうひとつ、別のお話もちょっと考えていたんです。その時は相談した出版社の方が「眼鏡の話をつくってほしい」って言ってくださって、もうひとつの話はボツになったんですが、実はそれが『おいしそうなしろくま』だったんですよ。

 もともとイラストレーターとして、白クマが食べ物に入るっていうイラストを個展で描いていたんです。それをただ並べた作品なので、あまりストーリーがないんですけど、絵本のスタイルが変わってきているので助かった作品だな、と思っています。昔だったらしっかりお話がないといけなかったのかもしれないんですけど、今は子どもがひとりで読んでも楽しめるとか、お子さんがいない若い子が買ってくれるとか、いろんなバリエーションがある時代ですよね。

『おいしそうなしろくま』(PHP研究所)より
『おいしそうなしろくま』(PHP研究所)より

――子どもが大好きなメニューと動物。ありそうでなかった組み合わせはどうやって生まれたのか。「それすごい聞かれるんですけど」と笑いつつ、柴田さんはやわらかい口調で答える。

 説明のしようがないんですけど、わたし妄想癖があるので、小さい頃からひとり遊びが多かったんです。食器とか日常にあるものを使って、人形をかくれんぼさせたりジャンプさせたり。そんな感じで『おいしそうなしろくま』も自分がそこにいたらどうなるかな、っていうのを想像して描いただけなので、まさか共感してもらえるとは思っていませんでした。

 でも食べ物って年齢に関係なく普遍的なものっていうか、生活に欠かせないアイテムじゃないですか。子どもは特に「今日のメニューなんだろう?」とか、食に執着がありますよね。だから作品の世界に入りやすかったんじゃないかな、と思っています。

東京都調布市の「本とコーヒー tegamisha」で
東京都調布市の「本とコーヒー tegamisha」で

 主人公を白クマにしたのは、ポーズがすごく人間らしいんですよね。インターネットでチェックしたんですけど、変なポーズをしてもなんかかわいいというか、愛嬌があるというか。ちょっとおじさんに見えるのは、狙ってるんです(笑)。わたし、かわいい絵が描けないので。「なんだこれ」って言われるような、けれど気持ち悪いまでいっちゃうといけないので、微妙なラインでとどめたいなと。かわいいイラストはもう世の中にいっぱいあるので、そうじゃない表情をキャラクターにしたいなと思いました。

――イラストレーターから絵本作家へ。決心したのは、育児が一段落した時だった。

 イラストレーターの仕事はポスターとかちらしとか、その時は大事なんですけど終わるとなくなっちゃうんですよね。だから「絵本はいいな」っていう気持ちはずっとありました。でも絵にお話を付けるってことがむずかしいので、なかなか手を付けられなかったんです。だけど3年ほど前になぜか「今やんなきゃ」って考えた時期がありまして。子どもが大きくなって、余裕が出てきたのかもしれませんね。

 あと、いま息子の小学校で毎週、絵本の読み聞かせのボランティアをしているので、気持ちが高まっていったのかもしれないです。いつか自分の本でやりたい!みたいな(笑)。もう7年目になるのかな。読み聞かせをしつつ、絵本を学んでいったというか、新人作家なのでまだ学び中なんですけどね。問いかけの文章が入っていると子どもたちの反応がいいので、『おいしそうなしろくま』もそういう絵本にしています。

――子どもとコミュニケーションが取れる絵本にしたい。柴田さんの狙い通り、『おいしそうなしろくま』を読み聞かせると教室は大盛り上がり。

 低学年になるほど、すごいわちゃわちゃになるんですよ! おすしのページの「きみは どの すしねたが すき?」っていうところで「僕はマグロ!」って叫んだりとか、パンのページでは「わたしは朝はパン!」とか。「ああ、スシロー行ったんだ」とか「お母さん忙しいから朝はパンだよね」とか、その家庭が見えてくるのがおもしろいですよね。

 わたし、「柴田さんやりすぎです!」って言われるくらいワークショップやサイン会が好きなんですけど、そこで「好き嫌いがあった子が食べられるようになりました」とか「食がすごい細かったけど、食べられる量が増えました」とか声をかけてもらうこともあるんです。そういうのを聞くとよかったな、と思います。

『おべんとうしろくま』の出版を記念して、シルクスクリーンでランチバックを作るワークショップを開いた柴田さん
『おべんとうしろくま』の出版を記念して、シルクスクリーンでランチバックを作るワークショップを開いた柴田さん

――絵本作りで心がけているのは、子どもが主役ということだ。

 子どもって、大人が思ってる以上に奇想天外なところが多いですよね。絵本の世界でそれを否定しないように、気をつけています。新作の『おべんとうしろくま』も、最初はオーソドックスなものばっかりだったんですけど、編集者さんに「こんなのあったらいいな」っていうのを描こう、って言われてサンマを丸ごと焼いたお弁当や冷やし中華のお弁当を入れました。想像の世界でおもしろいね、って思わせる絵本は飛び抜けててもいいと思うんですよね。

『おべんとうしろくま』(PHP研究所)より
『おべんとうしろくま』(PHP研究所)より

 絵本づくりは毎回しんどいです。読み手の気持ちを考えてしまうところがいけないんでしょうかね。分かんないですもん、子どもの気持ち。でもまず自分が楽しむことかな、と思います。お話を作りたい、って気持ちと読み手を楽しませたい、という気持ちを忘れずに、自分がいなくなっても後世に残っていく作品づくりをしていきたいです。