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「上海36人圧死事件はなぜ起きたのか」書評 惨事から見える累積する矛盾

評者: 吉岡桂子 / 朝⽇新聞掲載:2015年08月23日
上海36人圧死事件はなぜ起きたのか 著者:加藤 隆則 出版社:文藝春秋 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784163902913
発売⽇: 2015/06/27
サイズ: 20cm/255p

上海36人圧死事件はなぜ起きたのか [著]加藤隆則

 上海の観光名所・外灘(バンド)で新しい年を迎えようと集まった群衆が押し合いとなって転倒し、36人が圧死、49人が負傷した。発生時間は2014年12月31日午後11時35分——。
 今年元日に世界をかけめぐった惨事の記憶は、多くの人にとって中国で続く別の事件で上書きされているかもしれない。だが、著者は立ち止まり、この事件を万華鏡ののぞき穴にして、隣国に累積する矛盾を見つめ、描き出す。
 カウントダウンの映像ショーが中止されていたはずの現場に、31万人もつめかけたのはなぜか。犠牲者名簿に記された死者たちの隠された素顔に迫りながら、格差や情報統制、日本との関係、そして個人の幸せより国家の強さを重んじる習近平(シーチンピン)体制のもろさを浮かび上がらせる。天津の爆発事故とも共通する構図だ。
 新聞記者として今春まで約10年、中国に駐在していた著者の街とそこに暮らす人々に対する愛着がにじむ。まばゆさゆえに影が濃い、21世紀の上海の物語としても読める。
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 文芸春秋・1620円