島本理生「夏の裁断」書評 編集者の性癖に戸惑う女性作家
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2015年09月20日
夏の裁断
著者:島本 理生
出版社:文藝春秋
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784163903248
発売⽇: 2015/08/01
サイズ: 20cm/125p
夏の裁断 [著]島本理生
求めておきながら、女がその気になったら冷たく突き放す。主人公の女性作家は、男性編集者の悪魔のような性癖に戸惑いながらも、過去の性的トラウマから、編集者の強い要求におびえつつ従ってしまう。胸苦しさを覚える物語だ。
パーティー会場で編集者に襲いかかる場面から始まる。その後、傷を癒やすかのように、亡くなった祖父の自宅に引きこもり、蔵書を「自炊」するため、背表紙を黙々と裁断する。どうすることもできない自分へのもどかしさの裏返しのようだ。
「膨大な我慢も混乱も」ため込んだ彼女が抜け出すすべはどこにあるのか? 夏の終わりの「本当の私」に救われる。
◇
文芸春秋・1188円