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伝説の妃が解くミステリー 池澤春菜が薦める文庫3冊

池澤春菜が薦める文庫この新刊!

  1. 『完全犯罪 加田伶太郎全集』 福永武彦著 創元推理文庫 1404円
  2. 『後宮の烏(からす)』 白川紺子著 集英社オレンジ文庫 648円
  3. 『メカ・サムライ・エンパイア』(上・下) ピーター・トライアス著、中原尚哉訳 ハヤカワ文庫 各778円

 加田伶太郎と聞いてすぐにピンと来る人はなかなかのミステリーマニアかもしれない。『ダレダロウカ』のアナグラム、という人を食ったペンネームのこの作家の正体は小説家、福永武彦だ(ちなみに船田学はSF用のペンネーム)。
 詩や純文学の印象が強いが、加田名義で書かれた作品は日本のミステリーに大きな影響を与えた。加田が翻訳して日本に紹介した海外作品も数多い。

(1)は洒脱(しゃだつ)で論理的なパズルミステリー。古典文学者・伊丹英典という、フランス文学者でもあった自身の分身のような探偵を配し、謎解きの愉悦を味わわせてくれる8編。

(2)は、架空の中国を舞台にした、いわゆる中華ファンタジー。後宮に住みながら夜伽(よとぎ)をしない妃、烏妃(うひ)。半ば伝説のような烏妃と、若い皇帝が出会った時、物語は動き始める。死者の声を聞くことができる烏妃が、謎と人々の思いを解きほぐしていく、オムニバス形式のミステリー。片方だけの翡翠(ひすい)の耳飾りに取り付いた女の幽霊、いつまでたっても鳴らない葬送の花笛、とうに死んだ雲雀(ひばり)の語る秘密、玻璃(はり)の櫛(くし)に秘められた悲恋……きらきらしく、艶(あで)やかだがしっかりと中身もある。まだ背景に大きな謎が残る。続編も期待したい。

(3)前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』で話題をさらった新進の作家の続編。タイトルからもわかるように、引き続き舞台は日本合衆国が統治するアメリカ。だが、ディストピア小説の色が濃かった前作から一転して、物語は士官学校を中心とした、少年少女の成長譚(たん)となる。前作が星雲賞海外長編部門に輝き、授賞式のために日本を訪れた経験もいかんなく盛り込まれ、日本オタクっぷりも加速(あまりにトリビアルなネタに果たして本国の読者がついてきているのか心配になるほど)。日本合衆国側のサムライを模した巨大ロボット、対するはナチスドイツが開発した半生体兵器に「バイオメカ」、振り切ったコテコテ具合は今作でさらにパワーアップ。どこまで行っちゃうんだろ……?=朝日新聞2018年6月2日掲載