木下古栗「金を払うから素手で殴らせてくれないか?」書評 小説の自由と型破りな刺激
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2014年06月01日

金を払うから素手で殴らせてくれないか?
著者:木下 古栗
出版社:講談社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784062188197
発売⽇: 2014/03/27
サイズ: 19cm/171p
金を払うから素手で殴らせてくれないか? [著]木下古栗
どんどん脇にそれていく本筋とあまりに飛躍した物語の着地点に、読者はあぜんとするに違いない。無責任で不条理。だが同時に、小説の自由と型破りな刺激に満ちている。3編を収録した短編集。
表題作は「米原正和を捜しに行くぞ」と当の米原が部下の鈴木に言う場面から始まる。失踪した米原を捜すため、「他人ばかりでなく自分を騙(だま)すのが常態化」した職場を抜け出した彼らは、なぜか銭湯に寄ったりフランス料理を堪能したり。どこか狂気めいた設定に加え、語り手であるはずの「俺」の存在があいまいで、物語全体は不穏さを増す。痛烈な社会批判のような驚きの結末も、真面目に受けとめるべきか迷うほどに面白い。
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(講談社・1620円)