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「高学歴女子の貧困」書評 大学院出ても万年非常勤とは

評者: 水無田気流 / 朝⽇新聞掲載:2014年03月30日
高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか? (光文社新書) 著者:大理 奈穂子 出版社:光文社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784334037840
発売⽇: 2014/02/18
サイズ: 18cm/187p

高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか? [著]大理奈穂子・栗田隆子・大野左紀子・水月昭道

 周知のように、日本では大学院修了者の就職の間口は狭い。専門にもよるが、一般に人文社会科学系の研究職志望者は、専任教員になれなければ低所得の不安定雇用、研究費も自弁の悲惨な生活が待っている。しかも女性の場合、一般企業でも障壁となる数々の問題が立ちはだかる。本書は、こうした大学院修了女性たちのリアルな窮乏を描いた力作である。大学院は出たものの、今なお万年非常勤講師の評者にとって他人事(ひとごと)ではない。
 大学院進学者の女性比率は年々高まっており、現在、大学院博士課程在籍者は女性が三割を占める。だが、専任教員の女性比率は二割に留(とど)まるという。職階が上がるごとに女性比率は低下し、講師三割、准教授二割、そして教授に至っては一割となる。一方、国公私立大学の全教員に占める非常勤講師の割合は女性が男性の二倍以上。本務校のない「専業非常勤講師」も女性に多い。「非常勤講師という職は、大半の男性教員にとっては単なるアルバイトの一部なのに、大半の女性教員にとっては生活をそれ一本で支えなければならない『生業』となっている」という大学業界の現況は、もっと世間一般に知られるべきであろう。
 また業績が多いほど専任職に就く者も増加する傾向があるが、それも男性の場合だけであり、女性は業績が多くても非常勤に留まる割合が高いという残酷な事実も……。女性は一般企業でのキャリア形成と同様、学究生活も紆余曲折(うよきょくせつ)を経やすい。学歴中断経験のある者は、女性が男性の倍。背景には、結婚・出産・育児・介護などによる家庭責任の重さが指摘できる。
 欲を言えば、この構造上の問題について、筆者たちの個人史を基軸としてより具体的かつ客観的に検証できたはずだ。また学術業界特有の問題と女性労働一般の問題を横断的に検証すれば、さらに深い問題提起となっただろう。この点は、次作に期待したい。
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 光文社新書・777円/大理 一橋大学非常勤講師。栗田 ライター。大野 文筆家。水月 筑紫女学園評議員