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軽薄体で語るゴージャスな交流

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2014年02月16日
ヘンリー・ミラーの八人目の妻 著者:ホキ徳田 出版社:水声社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784801000063
発売⽇:
サイズ: 20cm/409p

文豪ヘンリー・ミラーの最後の妻が、1960、70年代ロサンゼルスを駆け巡る!自由人ミラーの私生活とハリウッドの古き良き時代、そしてナイトクラブ開店騒動を描くドタバタエッセ…

■ヘンリー・ミラーの八人目の妻 [著]ホキ徳田

 ホキ徳田というと、私のような“遅れてきた世代(ただ今50代前半)”には、妙になまめかしいイメージがある。彼女が結婚した文豪ヘンリー・ミラーの『北回帰線』が性的描写の赤裸々さゆえに米国で発売禁止になったこと、当時50歳近い年(とし)の差婚(さこん)であったことなど、スキャンダラスな話題が先行していたからだ。
 そのホキ徳田が80年代から90年代にかけて書いていたエッセイが一冊にまとまった。なぜこのタイミングに?と思ったのは私も同じだが、読み進めばすぐに“エッセイストとしてのホキを評価するには、時を経た今こそ適切なのだ!”と気づくだろう。
 例えば、「とうとうヘンリー・ミラーさんと結婚する羽目にアイナッタ。まどろっこしいディテールはカット。生まれながらの即決主義の因果デアル」とか、「大文豪夫人という、うすらイヤミな肩書きと、なれないポーズを演じていたホキのウップンは一挙に晴れたのでゴザリマス」などなど。その文体の威勢のよさ、権威によりかからない潔い感覚は実に気持ちがいい。
 いわゆる「昭和軽薄体」である。嵐山光三郎や椎名誠が主導していたこのスタイルの見本のひとつが、(編集者など当時の出版人との共同作業があったとしても)ホキ徳田において見事に実現していることに注目し直すべきだろう。
 そしてその軽薄体で語られる内容はゴージャス! 同じく文豪ローレンス・ダレルの気さくさ、シナトラ一家のカジノでの遊び方、ハリウッドの女優たちのパーティでの振るまい、さらに同時代の日本人作家たち(野坂昭如、五木寛之などなど)や女優(太地喜和子、春川ますみなど)との洒落(しゃれ)た交流の数々。
 つまり日本の芸能人が海外と交流していた時代のビビッドな記録が、まったく気負いなくここには描かれている。
 ホキ徳田という女性のしなやかで軽々とした強さに、読む者はシビれるに違いない。
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 水声社・3360円/ほき・とくだ 37年生まれ。歌手、バー経営。67年にヘンリー・ミラーと結婚、その後離婚。