前現代俳句協会長の宮坂静生さん(80)が主宰する俳句誌「岳(たけ)」が創刊40周年を迎え、長野県軽井沢町で5月、記念大会が開かれた。
長野県出身の宮坂さんは、日本各地でその土地ごとに固有の季節感を表す言葉を発掘し、「地貌(ちぼう)季語」と名付け、俳句に採り入れることを提唱してきた。代表的なものに、東北や北陸などの雪国に伝わる「木の根明(あ)く」を挙げる。
春先にモミなどの根元でドーナツ状に雪解けが始まると、人々は春の始まりや先祖の死者が棲(す)む「根の国」とのつながりを実感したという。「日本列島が日本列島と名付けられる以前、季語・季題以前の喜びを伝える大事な言葉だ」とあいさつ。「地貌季語発掘に託した『岳』の俳句運動は、こうした感覚への深い理解を共有することから輪が広がる」と結んだ。
続いてノンフィクション作家の柳田邦男さんと、米国出身の詩人アーサー・ビナードさんが「日本語を生きる」と題し対談。原爆や東日本大震災後の原発事故などをとりあげ、「ふるさと」をキーワードに日本語について論じあった。
柳田さんは「ふるさとは単に生まれた場所というだけではない。心の中にある言葉、うた、物語など、人間の根源のところで人格形成の原点になるものだ」として、原発事故後の強制避難が「最も大事な子供の成長過程を壊した」と訴えた。ビナードさんは「ふるさとの山河破れて、国だけが残るのは本末転倒。詩歌にかかわる人間の大切な役割は『縁起でもない話』をすることだ。一般の生活者が避けることを言わなければ、時代を超える作品は残せない」と話した。(樋口大二)=朝日新聞2018年6月20日掲載
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