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小説の時間も押し流された

還れぬ家 (新潮文庫) 著者:佐伯 一麦 出版社:新潮社 ジャンル:一般

価格:853円
ISBN: 9784101342160
発売⽇: 2015/10/28
サイズ: 16cm/573p

十代で捨てた家だった。姉も兄も寄りつかない家だった。老父は心臓病を患い、認知症が進む。老母は介護に疲弊していた。作家は妻とともに親を支えることになった。総合病院への入院も…

評者:朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2013年04月14日

還れぬ家 [著]佐伯一麦

 父が認知症になり、早瀬光二は妻とともに頻繁に実家を訪ねる。同じ仙台に住みながら、父母それぞれとの間に確執を覚える早瀬は、父の症状が進むにつれストレスから心身の苦しみに襲われる。「父が生きているうちに」と、小説「還れぬ家」の連載を始めて間もなく父は亡くなり、その死までを同時進行の形で書いていた途中に3・11の大震災で「小説の中の時間も押し流されてしまった」。父母との、そして自分の過去との和解の時は訪れるのか。「還れぬ家」で描こうとしたことは、震災・津波・原発事故の影響を大きく受けざるを得なかったが、そのことがまた巧まざる同時性を帯び、時代との交信を媒介する「作家」を浮かび上がらせる。
    ◇
 新潮社・2415円