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角幡唯介「アグルーカの行方」書評 先駆者の魂宿る、1600キロ踏査

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2012年11月18日
アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 (集英社文庫) 著者:角幡 唯介 出版社:集英社 ジャンル:一般

ISBN: 9784087452297
発売⽇: 2014/09/19
サイズ: 16cm/455p

1845年、英国を出発したフランクリン隊は北極探検中にその姿を消した。ヨーロッパとアジアを結ぶ幻の航路を発見するために出航した一行は、北極の厳しい環境と飢えにより総勢12…

アグルーカの行方―129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 [著]角幡唯介

 1845年、欧州から北米大陸北側を抜けて太平洋に至る「北西航路」発見のため英国を出発したフランクリン隊は、北極圏で音信途絶、後に乗員129人全員が亡くなったと分かった。極地探検史上最大級の悲劇だ。21世紀の探検家である著者らは、隊の航跡を徒歩で踏破し、さらには、氷に閉じ込められた船を放棄した隊員たちが、生還のため目指した遥(はる)か南方に進む。
 その距離、実に1600キロ! 食料などの荷物を載せた橇(そり)を氷上で引き、乱氷帯では段差ごとに橇を持ち上げなければならない。猛烈な寒さに耐え、北極熊の脅威に怯(おび)え、激烈な飢餓のために麝香牛(ジャコウウシ)を撃ち、肉にあたって猛烈な腹痛に襲われる。なぜそこまでしてと思うわけだが、ひとつの目的は、書名にある「アグルーカの行方」を探ることだ。
 「アグルーカ」とは勇猛な探検家を先住民イヌイットが敬意を込めて呼んだ名。著者は文献を渉猟するうち「アグルーカ」と呼ばれた人物に率いられた一隊が、フランクリン隊全滅の地とされる「餓死の入江」を脱して歩き続けたという異説を知る。その入江では隊員が人肉食にまで追い詰められた証拠もあり「全滅」にはリアリティーがある。しかし、そこからさらに旅を続けた者らがいたなら……。
 極地を旅する意義は「自然にいたぶられ、その過酷さにおののき、人間の存在の小ささと生きることの自分なりの意味を知ることにある」と著者はいう。それゆえ著者は全地球測位システム(GPS)の使用すら冒険の意義を薄めるとしてジレンマを感じる。しかし、19世紀の探検家が持ち得なかった正確な地図は抵抗なく活用する。おそらく地図自体、探検の歴史の中で描かれたものだからか。
 通読すると著者ら自身が21世紀の「アグルーカ」に見えてきた。探検の系譜に連なる者として、かつての探検者たちの魂の行方は、確かに「ここ」にある。
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 集英社・1890円/かくはた・ゆうすけ 76年生まれ。『空白の五マイル』で大宅壮一ノンフィクション賞など。