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「死体は見世物か」書評 死者と生者の関係 問い直す

評者: 中島岳志 / 朝⽇新聞掲載:2012年10月07日
死体は見世物か 「人体の不思議展」をめぐって 著者:末永 恵子 出版社:大月書店 ジャンル:暮らし・実用

ISBN: 9784272330775
発売⽇:
サイズ: 19cm/214p

遺体の尊厳に対して、どう臨むべきか。日本で開催されてきた「人体の不思議展」の問題を考察することで、現代の死体利用とそれを取りまく社会のあり方について問題提起をする。【「T…

死体は見世物か 「人体の不思議展」をめぐって [著]末永恵子

 90年代から全国で開催され、話題となった「人体の不思議展」。近くて遠い人体の展示は、多くの観客を動員した。しかし、展示された人体は、特定の誰かの死体である。「その人」は人格を持ち、他者と関係してきた具体的存在だ。その死体が皮膚を剥ぎ取られ、本人の望むはずのないポーズで展示された。著者はこの展覧会に、死体への冒涜(ぼうとく)を読み取る。
 展示会のきっかけは、ドイツのハーゲンスが開発したプラスティネーション標本という死体長期保存技術にあった。日本の解剖学者はこの技術に注目し、日本での製作を熱望。その啓蒙(けいもう)活動として、展覧会を企画した。1995年、日本解剖学会は創立100周年記念行事として「人体の世界」展を開催。これはプラスティネーション標本を一般公開した世界最初の機会で、注目を集めた。
 展覧会の成功に目をつけたのは起業家たちだった。彼らは死体の商業展示をビジネスチャンスととらえ、「人体の不思議展」を開催。学者のみならず、行政やマスコミも後援し、全国を巡回した。
 そもそも展示された死体はどこから来たのか。当初はハーゲンス作製の標本が使用されたが、興行会社との金銭トラブルで関係は決裂。すると、主催者は入手先を中国に求めたが、ここで疑惑が浮上する。死体の出所が不透明なのだ。標本となった死体は誰なのか? 本人は生前、確かに献体の意思を示したのか?
 商品化された死体と、それを見世物的に消費する来場者。会場には慰霊碑・献花はなく、死体の尊厳への配慮は見られない。一方で、我々は博物館でのミイラ展示をあまり問題視しない。死体展示が許容されるボーダーラインはどこにあるのか。
 この境界を見定める作業は、必然的に死者と生者の関係の問い直しにつながる。本書は、極めて重要な哲学的問いを投げかけている。
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大月書店・1890円/すえなが・けいこ 65年生まれ。福島県立医科大学講師。『烏伝神道の基礎的研究』。