「評伝ナンシー関」書評 「角度」を武器に普遍を切り取る
評者: 中島岳志
/ 朝⽇新聞掲載:2012年07月15日
評伝ナンシー関 心に一人のナンシーを (朝日文庫)
著者:横田 増生
出版社:朝日新聞出版
ジャンル:一般
ISBN: 9784022617989
発売⽇: 2014/06/06
サイズ: 15cm/372p
評伝ナンシー関 「心に一人のナンシーを」 [著]横田増生
時折、「ナンシー関が生きていたら」と思うことがある。テレビを見ながら、言語化できないモヤモヤ感が残る時、あの消しゴム版画が思い浮かぶのだ。
ナンシー関が亡くなって10年。本書は、ナンシー関の歩みをたどりながら、彼女の批評の核心に迫る。
若き日のナンシーは、「ビートたけしのオールナイトニッポン」の熱心なリスナーだった。ナンシーの武器である「角度」は、このラジオによって生成された。青森で生まれ育ち、高校時代から消しゴムで作品を作り始め、18歳で上京。大学中退後、その才能が話題を呼び、徐々に雑誌の連載を増やした。
ナンシーのテレビ批評は、芸能人を取り上げながら、表層的な芸能ネタに回収されない。その表現は社会批評となり、人間のあり方を捉える。だから、今読んでも全く古くない。ナンシーの角度は、常に普遍を切り取っている。
「心に一人のナンシーを」。いいサブタイトルだ。
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朝日新聞出版・1575円