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谷山走太「ピンポンラバー」 超絶プレーと等身大の青春

 わずか3メートルに満たない卓上を、0・1秒でピンポン球が飛び交うことから最速の球技とも言われる卓球。スウェーデンでの2018年世界大会も記憶に新しいが、小学館ガガガ文庫の新人賞・第12回小学館ライトノベル大賞で優秀賞を受賞した谷山走太のデビュー作『ピンポンラバー』は、そんな卓球を描いたスポーツ小説である。
 卓球エリートを育てるという目的に特化した私立の一貫校・卓越学園。そこに高校1年生として編入した飛鳥翔星(あすかしょうせい)は入学早々、1年生最強の女子・白鳳院瑠璃(はくほういんるり)に挑むが、ひざに抱えた弱点を見抜かれ、あっさり敗北してしまう。そんな彼に、敗北の対価として瑠璃が要求したのはパートナーとしてダブルスを組むこと。これまで一度も勝ったことのない3年生の姉・紅亜(くれあ)に勝つため翔星の力を求めたのだ。そして偶然にも翔星は、小学生の頃に惨敗を喫し、再戦のために捜し続けていた人物が紅亜だと気づく……。
 まず、本書の読みどころは、個性豊かな卓球エリートたちによる、いい意味でマンガチックな試合描写だ。「鉄腕(アイアン)」、「氷結」などなど、登場するライバルたちは皆、まるで異能力バトルの登場人物のようなふたつ名を持ち、それぞれのキャラを絶妙に反映した戦法や必殺技を武器に、次々と翔星の前に立ち塞がる。卓球知識がゼロという読者でも、読み進めていくだけで、知らず知らず、このスポーツの激しさと奥深さに引き込まれていくだろう。
 しかし超人的に誇張された試合を描く一方で、本書は、等身大の少年少女による青春文学でもある。歯にきぬ着せぬ翔星、それに輪を掛け毒舌でサディスティックな瑠璃、と性格に問題ナシとはとても言えない彼らだが、その卓球愛はどこまでも本物で、まぶしさを覚えるほど。愛する卓球のため、どうしても超えなければならない壁に挑むことになった若く不器用なコンビがその内に秘めた、熱い心を感じてほしい。
 ケレン味あふれる試合描写に、読者を最後まで退屈させない構成といった巧みさと、新人らしい直球な姿勢が同居した一冊。最近、熱血スポ根ものってご無沙汰だな、という方に、ぜひともおすすめしたい。=朝日新聞2018年6月30日掲載