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前島賢さんのコラムが最終回 10年間書き続けた目から、ラノベの地平はどう見える?

飯田一史著「ライトノベル・クロニクル2010-2021」(ele-king books・1980円)

30・40代獲得 現代人の切実さも代弁

 ライトノベルを中心に若者向け小説を紹介する本欄は今回が最終回。特別編として筆者の前島賢にインタビューした。掲載面やタイトルを変えつつ10年間書き続けた目から、ラノベの地平はどう見える?

 ライトノベルは目まぐるしく変化し次々新たな流行ジャンルも生まれましたが、やはり大きなのは、「中高生向けの小説」という前提が更新されたことだと思います。2009年のメディアワークス文庫を嚆矢(こうし)に一般文芸とライトノベルの中間的レーベルの創刊が相次ぎ、現在はライト文芸という名前で定着しています。

 そして、いわゆる「なろう系」――「小説家になろう」をはじめとする小説投稿サイト発のweb小説の大ヒット。これらの作品は30代、40代の読者も数多く獲得しており、それを反映してか、30代前後の引きこもりやニート、ブラック企業に勤めるサラリーマンが、異世界に転生し新たな人生を歩むことになる、という作品も多い。自分も氷河期世代なので「こんなはずじゃなかった」「別の人生があったはずだ」という思いには、強く共感します。時代小説が描く侍がサラリーマンの共感を呼んだように、「なろう小説」もまたファンタジー世界を舞台に、現代人の切実な声を代弁している面もあると思います。

前島賢さん

 そうした流れからか、最近では従来の文庫書き下ろし作品でも、社会人が主役のラブコメなどが出版され、ライトノベルの対象年齢層の広がりを感じます。

 連載中は、朝日新聞の読者の方にどうとっかかりを持ってもらうか毎回悩みました。ライトノベルというのは人気作が生まれると、すぐそのパロディーや本歌取りが生まれ、さらにそれがパロディーにされ、という連鎖の中で成立している作品も多く、文脈の説明だけで紙幅が尽きてしまう。なのでそういう苦労の少ない、作家性の強いものや一般文芸のテイストに近いものを選びがちでした。また「とにかく女の子がかわいい」というタイプの作品も後回しにしがちだったことも反省しています。

 そんな中、先月刊行された飯田一史さんの『ライトノベル・クロニクル2010―2021』(ele-king books)は60作のアニメ化作品を通じてライトノベルの歴史を語った労作です。自分がおさえられなかった作品を含め、この10年が的確にまとめられていますので、ぜひ読んでみてください。(聞き手・小原篤)=朝日新聞2021年3月27日掲載