秋田に里帰りしていたカミさんが戻ってきた。
「はい、これお土産」
渡されたのは、小さめのポテトチップスの袋みたいなものである。
「何これ?」
「カリッキーっていうの。珍しいでしょう」
おもて面を見ると、だいこんの絵と横文字でkalliccyと書いてある。さらによく見ると、右上あたりに〈いぶりがっこ・ドライ〉と書いてある。
いぶりがっことは、秋田名産の漬け物である。「いぶり」は燻(い)ぶり、「がっこ」は漬け物を意味する。つまりだいこんを燻ぶって乾燥させ漬け物にしたのがいぶりがっこなのだが、それをさらに「ドライ」とはこれ如何(いか)に?
「ドライ・フルーツのいぶりがっこ版みたいなものよ。面白い食感だから、食べてごらんなさいよ」
「どりどり」
袋を開けて、一切れつまみ上げてみると、私の知っているいぶりがっこよりも二回りくらい小さくて、驚くほど軽い。水分が完全に抜け切っているからだろう。口に放り込み、嚙(か)もうとすると、最初は硬くて歯がたたない。私の歯が悪いせいもあろうが、これは相当な硬さだ。しかし、口の中の水分がじわあっと持っていかれると、ふんにゃりしてきて、同時にいぶりがっこ特有の煙っぽい甘辛さが広がってくる。普通のいぶりがっこよりも、やや甘めの味つけである。柔(やわら)かくなってきたところをガリガリと嚙みながら、袋の裏面を見ると、こう書いてある。
〈★楽しみ方その1/おやつ、お酒のお供、お茶でも何でも合うやみつきサクふわ食感をお楽しみください。
★楽しみ方その2/開封してしばらくすると、漬物にもどります。ドライとは違う食感をお楽しみください。
★楽しみ方その3/最後に残った粉は、ふりかけ・お茶漬け、色んな食べ物にトッピングで美味(おい)しい!〉
ふーん、なるほどなー、と感心しながらも、私は何故かだいこんが気の毒になってきた。だって、そうではないか。だいこんにしてみれば、土の中でのほほんとしているところを、いきなり髪の毛(葉っぱの所ですね)を持って引っこぬかれ、水で洗われて、火で燻ぶされる。ひいひい言っているところを今度は臭いぬかの中に埋め込まれるのだ。そして体じゅうがしょっぱくなってきたなー、と思っていると、いきなり八ツ裂きどころか百裂きにされるのだ。もう勘弁してくれと言いたいところを、カリッキーの場合はさらに何らかの方法でカラッカラに乾燥させられるのである。
「だいこんに生まれなくてよかった」
そんなことを妄想しながら、もう一枚カリッキーを食べる私なのであった。=朝日新聞2018年6月30日掲載
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