『論語』『老子・荘子』から『十八史略』『白氏文集』まで。中国の古典文学や思想・歴史書をそろえた明治書院(東京都新宿区)の「新釈漢文大系」シリーズ全120巻(別巻1巻付き)が完結した。1960(昭和35)年の刊行開始から58年。国語教育における「古典」の位置づけが変わるなか、関係者は「ようやく完結できた」と安堵(あんど)の表情を見せている。
版元の明治書院は1896(明治29)年創立。高校国語の検定教科書を手掛ける。戦後世代にも漢文に親しんでもらおうと企画した。専門家が原文の全文とその書き下し文、現代語訳を執筆し、詳細な語釈や解説を加えた。
編集方針を立てた漢文学者の内田泉之助ら、編集委員5人は既に故人。編集や執筆に関わった約130人のうち約7割が完結を見ずに亡くなった。『詩経』全3巻を書いた石川忠久・二松学舎大学名誉教授(86)は「教科書の底本になる、いわば教科書の教科書。(中国文学や中国哲学の)多くの先輩、同僚が関わった」と振り返る。
有終の美を飾ったのは『白氏文集十三』。唐の詩人、白居易の詩文集を計16巻に全文収録し、『史記』の計15巻を超えた。シリーズ累計165万部の刊行中に、社長は6代目から11代目へ。三樹蘭(みきらん)社長(34)は「国語教員から政治家、経営者まで熱心な読者に支えられた」と話す。
小島毅(つよし)・東大教授(中国思想史)は「戦前は漢文、国史、修身の三つの科目が一体となり、文学や歴史、道徳の『伝統』を教えた。中国学、中国古典研究が戦後再建されてからも、漢文の訓読に慣れ親しんだ読者は多かった」と語る。
国文学には日本漢詩の豊かな世界があり、江戸時代以前の史料にも漢文訓読調のものが多い。『易経』下巻に関わった堀池信夫・筑波大学名誉教授(中国思想史)は5月の完結を祝う会で、本シリーズを「(漢文の文化を伝える)最後の防波堤」とたとえ、「日本文化の研究には漢文の素養が不可欠」と説いた。(大内悟史)=朝日新聞2018年7月11日掲載
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