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山口ツトム「娘の彼氏は人でなし」 恋愛相手が謎の異生物だったら…

『娘の彼氏は人でなし』 [著]山口ツトム

 タイトルの「人でなし」とは比喩ではない。文字どおり「人間ではないもの」との異種間恋愛を描いた短編集だ。
 父親がもらってきた〈ヒトモドキガニ〉というショッカー怪人のようなカニに小学生の娘が一目惚(ぼ)れしたり、彼氏が欲しい女子大生が怪しい呪術本に従って作ったカレーが人格を持って動きだし、そのまま彼氏になったり。設定と絵ヅラはシュールなギャグのようだし、ノリのいい会話は実際笑える。が、その先にまさかの展開、涙の結末が待っているから侮れない。
 極めつきはやはり表題作。娘が家に彼氏を連れてくるというので心中穏やかでない父――というのはよくあるシチュエーションだが、その彼氏が謎の異生物だったから、さあ大変。「彼 見た目は私たちと違うけど/すごく優しくていい人なんだよ」と訴える娘に「そういう問題じゃないだろ」と怒鳴ってしまうお父さんを誰が責められよう。
 しかし父は娘の幸せのため全力で相手を理解しようとする。その姿を見れば肌の色や国籍が違う程度でガタガタ言うのがいかにバカらしいかわかるだろう。相手にとっては人間のほうが異形という逆視点も奏功。究極の異文化交流と家族愛に胸を打たれる。=朝日新聞2018年7月21日掲載