若手歌人の登竜門とも言われる現代歌人協会賞の贈呈式が6月、東京都内であった。受賞作は佐藤モニカさんの『夏の領域』(本阿弥書店)。南米にルーツを持つ作者が、結婚で夫の生地である沖縄に住み、日々の暮らしをうたう。日本歌人クラブ新人賞とのダブル受賞だ。
佐藤さんは、ブラジルで亡くなった祖父について初めて詠んだ歌が朝日歌壇に入選。結社に属し、歌人の道を歩むようになった。
《ああジョアンナ懐かしいわと抱きつく人、母には母の故郷がある》
名護市に住んで5年、年々沖縄が好きになるという。歌集には、暮らして知った沖縄が、多くうたわれる。
《次々と仲間に鞄(かばん)持たされて途方に暮るる生徒 沖縄》
この歌集の一つの大きな柱が、妊娠から出産・子育ての歌だ。その時々の匂いや感触も細やかにうたう。佐藤さんは受賞のあいさつで、「命は本当に奇跡。そういう奇跡である命を戦地に向けるようなことがあってはならないと強く思う」と述べた。
《さやさやと風通しよき身体なり産みたるのちのわれうすみどり》
すでに詩集『サントス港』が山之口貘賞受賞、小説「カーディガン」が九州芸術祭文学賞最優秀作を受けるなど、多才な佐藤さん。現代歌人協会賞選考委員長で歌人の坂井修一さんは「考え方の幅や経験が広い。表現は今日的で落ち着いているが、背景に一筋縄ではいかないものを持つ」と評価した。(岡恵里)=朝日新聞2018年8月1日掲載
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