怪談を楽しむことは、日本独自の文化の一つといえるでしょう。昔から日本各地で語り継がれてきた怪談のなかには、地域ごとに異なるものや、時代ごとに移り変わってきたものもあります。現代までにさまざまな人たちの手によって語り継がれてきた怪談のなかから、日本ならではの不思議な世界観が味わえる怪談本を紹介します。
- 山怪 山人が語る不思議な話(田中康弘、山と渓谷社)
- 青蛙堂鬼談―岡本綺堂読物集二(中公文庫)
- あやし(宮部みゆき、角川文庫)
- 文藝怪談実話(東雅夫・編、ちくま文庫)
- 小泉八雲集 改版(新潮文庫)
(1)山怪 山人が語る不思議な話
山で生きる人たちの不思議な体験をまとめた、現代版「遠野物語」といえる一冊です。マタギへの取材をライフワークとしている著者が主張するのは、日本の山には「何か」がいるということ。説明のつかない奇妙な恐怖からは、山と生きる者が抱く山への畏怖が感じられます。はるか昔から山や森を支配してきた不思議なもの存在を、読後には確信しているでしょう。
(2)青蛙堂鬼談―岡本綺堂読物集二
雪の降る雛祭りの夜、青蛙堂の怪談会に招かれた客人たちが語る12の怪異譚を収録した本です。端正な筆致が醸し出す古めかしくも趣のある不思議な物語が、ひとつ、またひとつと語られていきます。淡々とした語り口からは、時を重ねて熟成されたような重みと湿気が感じられ、読者自身も青蛙堂に招かれたかのような錯覚を覚えるかもしれません。
(3)あやし
江戸の市井の人々が遭遇する日常に潜む怪異を描き、本当に怖いのはおばけや鬼ではなく人間の心である、と思えてくる一冊です。人の形をしていても心は異形になりはてた者たちの恐ろしさだけでなく、決して分かち合うことのできない哀しさも綴られています。背筋がゾッとしつつも憐れみを感じてしまう、怪しくも切ない怪談物語です。
(4)文藝怪談実話
ホラーアンソロジストとして定評のある東雅夫が選んだ怪談集です。明治・大正・昭和の誰もが知っている作家、噺家、歌舞伎役者など、名人級の筆力や語りをもつ人々の実話なので、どの物語も甲乙つけがたい出来栄えといえます。話すと呪われる「忌み話」の典型である田中河内介に関する怪談もあり、怪談好きにはたまらないアンソロジーです。
(5)小泉八雲集 改版
幼い頃に読んだ恐ろしい昔話の数々は、実は幕末に日本を訪れた外国人によって英語で紹介された物語だったのかもしれません。静かな語りで深い余韻を残す小泉八雲の怪談には日本の風土に根差したものも多く、本書を読めば外国人から見た日本文化や日本人論の一つだったということがよくわかります。また、怪談以外にも幅広い作品が収録されています。