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「カラス学のすすめ」書評 邪魔者扱い 人間に非があった

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2018年08月18日
カラス学のすすめ 著者:杉田 昭栄 出版社:緑書房 ジャンル:動物学

ISBN: 9784895313322
発売⽇:
サイズ: 19cm/341p

カラス学のすすめ [著]杉田昭栄

 以前保育園で「カラスを見たら逃げなさい」と指導されてきた娘たちが、異常にカラスを怖がるようになってしまったとき、怒りを感じて「カラスはお母さんの友達だよ?」と諭したことがある。カラスも人間への警戒心はあるので、子育て期のカラスに襲われたくなければ、急いで逃げるのでなくカラスの目を捉えて歩くことのほうが効果的だ。中途半端な知識を伝えることで恐怖は増大してしまう。怖いもの、厄介なものと感じたとしても相手を知れば見方も変わる。邪魔者を安易に殺していいとは思えない。東京都が捕獲したカラスを焼却処分していることも、保健所の犬猫の処分と同じく、長らく腑におちていない。
 本書の著者は、カラスを「切って、観て、実験して」きた解剖学者。それゆえ、知りたいことのためにどんどん解剖する。さまざまな実験も行い、ごみ荒らしを防ぐための商品開発にも積極的にかかわっている。カラス愛はあれど、余計な思い入れはなく、筆致が軽やかなので、カラス嫌いにも安心してお勧めできる一冊だ。
 驚いたのは、カラスは嗅覚ではなく、紫外線の反射具合によって半透明ごみ袋の中の生ごみを探しあてているという話だ。だから、ごみ袋が黒かった時代は、これほどの被害はなかったのだという。分別マナーを守らない人間が増えてごみ袋が半透明になった。実は人間にも非があったのでは、と著者は投げかける。
 カラスの肉はタウリンが多く含まれる健康食材であり、日本を含むアジアで食べられてきたという話も興味深い。地方では獣害対策のために、数を殺してそのまま死骸を捨てることが増えてきているというが、獣の命も、都市で捕らえたカラスも、なんらかその命を活かす動きが出てこないものか。やむを得ず殺した命は、術があるならば活かしきりたい。邪魔者は殺して捨てていいという考え方は、未来に伝えたくないものである。
    ◇
 すぎた・しょうえい 1952年生まれ。宇都宮大名誉教授(動物形態学)。『カラスとかしこく付き合う法』など。