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目立たない子にも活躍の機会がある なかやみわさん「くれよんのくろくん」

文:谷口絵美、写真:斉藤順子

ーー「読んでその世界に浸れる、『子どもたちのための物語』を発信し続けたい」。今年で作家デビュー20周年を迎えたなかやみわさんを創作へと駆り立てるのは、使命感にも似た思いだ。そらまめやどんぐりなどを擬人化した魅力的なキャラクターが繰り広げる物語は多くがシリーズ化され、2001年に発表した『くれよんのくろくん』もその一つ。地味で目立たない「くろくん」が自分の良さに気づき、仲間に受け入れられていく姿が、多くの子どもたちに晴れやかな気持ちを届けている。

 『くれよんのくろくん』は、デビュー作となった「そらまめくん」シリーズの次の作品作りを考えていて、画材箱の中にあったクレヨンに目が留まったのが誕生のきっかけです。学生時代に使っていたものだったのですが、水色やピンクはほとんど形が残っていないくらい使い込んでいるのに、黒や灰色はきれいなまま。同じクレヨンとして世に存在しているのに、こんなに使われ方が違うのはちょっとかわいそうだな、使われないクレヨンが活躍するお話が描きたいな、と瞬間的に思いました。

 私は元々キャラクターデザインの仕事をしていたので、最初はキャラクター作りから入ることがくせのようになっています。黒はちょっとネガティブなイメージで、引っ込み事案。それに対し、赤や青は元気いっぱいで……。そんなふうにそれぞれのクレヨンの性格を決めて、そこからどんな話にするかを考えていきました。

――新品のクレヨンたちが箱を飛び出し、机の上に置かれた画用紙にチューリップやちょうちょなど、思い思いに絵を描き始める。でもくろくんだけは「せっかく描いた絵を黒くされてはたまらない」と仲間外れに。一人寂しくしているくろくんをはげますのが、シャープペンのおにいさん。みんなが好き勝手に描いてぐちゃぐちゃになってしまった絵をくろくんが塗りつぶし、シャープペンで削ると、夜空に大輪の花火が上がったーー。視覚的なインパクトとともに、読み手の心にぱっと光が射すクライマックスだ。

 花火のスクラッチの絵は、私が小学校2年生のときに実際に描いた絵がヒントになっています。夏休みの宿題をどうしようかと悩んでいたら、母が「じゃあ、花火でもやったら?」と、こういう描き方を教えてくれて。それが結構評判がよくて、コンクールで賞をいただいたんです。クレヨンで黒をいっぱい使う絵といえば、もうあれしかない!という感じでした。

花火のシーンは実際に黒のクレヨンで塗りつぶした絵をシャープペンで削っている。「絵を汚さないようにティッシュを当てながら削って、カスがたまってきたら少しずつ取って。とにかくカスが大変でした(笑)」

――「そらまめくん」は仲間、「どんぐりむら」は職業というように、なかやさんの作品にはそれぞれ物語を通して伝えたいテーマが明確にあるが、「くれよんのくろくん」では、予想していなかった反響が読者から多く寄せられた。

 この作品を構想したときはまだ子どももいなかったので、私はただ「描く」ということを通して、あまり目立たない子が一躍花を咲かせる物語にしたい、と考えていました。それが読者からのお便りを読んでいると、「10色のクレヨンが子どもたちの世界に類似している」というふうに見てくれる方が多かったんです。「初めて保育園や幼稚園で生活をする子どもが集団の中で戸惑っている様子が、くろくんとすごく重なる」「くろくんに感情移入してしんみりしていた子が、最後の場面を見て自分のことのように喜んでいるのを見て、『ああ、何か園で辛い思いをしていたんだな』と気づかされた」…そうした親御さんの意見もありました。

 子どもって未熟さゆえに、自分とは違う異質なものを本能的に排除してしまったりするところがありますよね。でもこの絵本を読むことで、そういう目にあっている子がちょっと勇気を持てたり、逆にお友達にそういうことをしちゃっている子が「いけなかったな」って気づいてもらえたりしたらいいなって思います。

 あとは、大人にはシャープペンのおにいさんの役割に気づいて欲しいですね。子どものことは子ども同士で解決するほうがいいという意見もありますが、私は、未熟な子どもが自分たちだけで問題を解決するのは無理だし、大人が関与しないのは結構無責任なことじゃないかと思うんです。どちらかに加担するということではなく、うまくまとめられるように、親や先生がさりげなく背中を押してあげる。そうすれば、いじめの多くはなくせるんじゃないでしょうか。

『くれよんのくろくん』(童心社)より

――「絵本は子どものためのもの」と、なかやさんは繰り返し口にする。当たり前のことに思えるが、そうではなくなる危機感があるのだという。

 最近は、物語を描ける絵本作家がいなくなってきていると言われています。ビジュアルで見せるとか、会話でつなげるような絵本はたくさんあるんですけど、いわゆる「物語」を楽しむものって本当に減っているし、なかなか売れない。書店で並んでいるものの多くがロングセラーばかりという状況です。

 絵本の中には、ちょっとアート的な、大人っぽいものもありますよね。もちろんそういう作品もあっていいのですが、スタイリッシュな絵本が売れると、そういうものを目指す人がどんどん増えて、編集者もそちらを積極的に作るようになる。そうなると、子どもに向けて発信するものが減ってしまうんです。それはいかんなと。

 もう一つ、共働き家庭が増えてお母さんが忙しくなったこともあって、「くれよんのくろくん」ですら「文が長くて読み聞かせるのに疲れます」「ちょっと長かったけどよかったです」といった感想が2、3年くらい前から目立つようになりました。そんなこと、過去にはなかったんですよ。

 子どもはやっぱり物語が好きだし、園の先生に読んでもらうと、夢中になって聞くんです。2歳くらいでも、たくさん読み聞かせしてもらって本に触れているお子さんは、すごく語彙が豊富。それなのに、親のニーズに応えるような本を作ってしまっては、子どもの感性は伸ばせないし、子どもにとってもたくさん言葉を吸収するチャンスを逃すことになります。でも悲しいかな、そういう絵本も出てきています。

――「子どもたちのために、きちんとした物語を届ける」。絵本を取り巻く環境がどう変わろうと、いや、変わるからこそ、なかやさんの思いはぶれない。作品を作るときは、実物と同じサイズのダミー本を何回も作って、編集者とともに言葉と構成を練り上げていく。

 絵本を読んでくれる子の年齢に適した文字量や言葉を探り、何度も音読して、「てにをは」一つもすごく気にします。それと、読み聞かせをするときの読む順序や目線を考えて文字をどう配置するかも重要です。一気に読んで欲しい文章なのか、ちょっと間をあけて、ポツンと言って欲しい言葉なのか。私がすごく影響を受けたかこさとし先生もそうですし、ロングセラーの絵本は、どれを見てもそういうことが本当に上手にできています。

実物大で作るダミー本。「同じ大きさの画面に文字を打ち込んでみないと、『この言葉は絵と合っているかな』っていうのが私は分からなくて」。最低2、3回は作り、編集者に見せて内容をブラッシュアップしていくという

 作家になったばかりの頃は、「誰も描いていないようなものを描きたい」っていう、ある意味自分の欲が創作の原動力になっていたんですね。でも、自分も親になって子どもと向き合っているうちに、子どもたちのために必要なものを描くべきだという気持ちにだんだん変わっていきました。

 子どものときにすごく愛されたり、安心した環境で育てられたりした人って、大人になって多少大変なことがあっても、みんな乗り越えているんですよね。そう思うと、私たちの仕事は子ども時代を楽しく過ごすための一つのツールとして、とても大事な役割を担っている。おこがましいかもしれませんが、だからこそ、心してかからなければいけないと思っています。