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戦争と少年、覚悟持って書いた あさのあつこさん

あさの・あつこ 1954年、岡山県生まれ。大学在学中から児童文学を書き、小学校の講師を経て91年にデビュー。少年野球を題材にした『バッテリー』で野間児童文芸賞。近未来を舞台にしたディストピアSF『№6』、時代小説『弥勒の月』など幅広いジャンルを手がける。=槌谷綾二撮影

 作家あさのあつこさんを迎えた「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が6月、大阪市の中之島フェスティバルタワーであった。戦争に巻き込まれる少年兵たちを描いた小説『ぼくがきみを殺すまで』(朝日新聞出版)に込めた思いと、生活する岡山県美作(みまさか)市で出会う深い闇など自然の魅力を語った。

瑞々しい自然描写「日常で得た感覚」

 『ぼくが~』は朝日新聞の連載小説。月の満ちない土地ベル・エイドの民と、ハラと呼ばれる曠野(こうや)の民とが戦争へと向かう不穏な日常を、エルシアとファルドという2人の少年を軸に描く。
 衝撃的な題が示すように、小説は戦争で加害者にされてしまう少年たちに焦点を当てた。「戦争が始まれば戦うすべのない子どもたちは一番の被害者になる」とあさのさん。「ただ戦争は被害者だけではなく加害者も生み出す。私自身が加害者になる可能性も含めて、いま書かなければと思った」
 一方で、児童文学の書き手として葛藤もあったという。「死んでおしまい、破壊しておしまいという物語は児童書として書くべきではないし、安易なハッピーエンドにしてもいけない。大人としての責任と、物書きとしての覚悟。この二つを持って向かい合うのが、児童文学だと思っています」
 殺伐とした物語のなかで、少年ファルドがエルシアの部屋の壁に描く、森と海の絵が鮮やかな印象を残す。本作では壁画のかたちをとったが、瑞々(みずみず)しい自然描写は過去の小説『バッテリー』などでも見られた、あさの作品の魅力だ。「書くという作業は五感なんですね。何を見たか、何を聞いたか、あるいは何を肌で感じたか。それが描写のもとになっています」
 岡山県北東部の山あいにある故郷、美作市での暮らしについて尋ねると、こう切り出した。
 「夜歩いていると、闇だまりというのがあるんです。すべてが、ずぶずぶっと沈んでいってもおかしくない、人工の光が届かない闇だまり。そこからぽわっと、蛍が出てきたりする」
 「夏の日に犬を連れて川の土手を歩いていると、向こうから急に走り雨が来る。草木の乾いた緑色が鮮やかに濡(ぬ)れて、その緑がどんどんこっちへ来るんです。通り過ぎた後は土が香り立つ。川の音も、匂いも一変するんです」
 会場から、放心したようなため息が漏れた。「そういうところに住んで、ぜんぶが肌に染み付いているので、それしか書けない。時代小説を書くときは、すごく役に立ちますね。江戸の闇はもう、東京にはないわけですから」
 来場者からの質問にも答えてもらった。「小さい頃から本がお好きだったのですか」という問いには「私は実は小学校の頃まで全然本を読まない人だったんです」。中学校に入ってから海外ミステリーに夢中になったという。
 たとえばシャーロック・ホームズを読んで、「イギリスに行ったことがなくても、読んでいると霧の向こうから馬車の音が聞こえてきたり、山高帽のふわっとした影とか、ドレスを引きずる音が聞こえてきたり。そういう経験を初めてしたんです」と話す。
 10代半ばの頃は「勉強もそんなに好きではなく、しかもこんな田舎にいて、と自分の中に閉塞(へいそく)感があった」とあさのさん。「でも、本と出会ったことで自分を取り囲んでいた壁が、向こうへ開くドアだったんだと気付いて。(そのドアを)開けばロンドンの霧も、ペルーの雨の音も、それこそ江戸の闇も流れ込んでくる。未知のものが見える、聞こえる、触れられるということを本に教えてもらいました」と、読書の喜びを語った。 (聞き手・山崎聡)=朝日新聞2018年8月25日掲載

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