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「WORK DESIGN」書評 偏り浮き彫りにして公平さ促す

評者: 石川尚文 / 朝⽇新聞掲載:2018年09月01日
WORK DESIGN 行動経済学でジェンダー格差を克服する 著者:大竹文雄 出版社:NTT出版 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784757123595
発売⽇: 2018/07/02
サイズ: 19cm/435p

WORK DESIGN 行動経済学でジェンダー格差を克服する [著]イリス・ボネット

 先月、東京医科大学の入試で、女性の受験生を一律に不利にする得点調整が行われていたことが明らかになった。内部調査委員会の報告書は「女性差別以外の何物でもない」と断じた。
 言語道断な不正だが、意図的な行為だけに、問題点も対策も明白にみえる。
 厄介なのは、採用面接などの選考側に、女性の能力や適性を低くみる「無意識のバイアス(偏り)」があると疑われる場合だ。
 自覚のない偏りの存在を浮き彫りにし、無意識の行動を変えさせる。本書は、こうした課題への立ち向かい方に、実際的で力強い指針を与えてくれる。キーワードは題名にもある「デザイン」だ。
 冒頭の事例が印象的だ。米国の有力オーケストラは男性奏者が多かった。ところが、採用試験のときに審査員と演奏家の間にカーテンを下ろすようにしたら、女性の採用比率が飛躍的に上がったという。
 無意識が生み出す差別をなくすには、「カーテンを引く」といったデザインで、より公平な行動を促すのが効果的というわけだ。
 企業で行われている意識向上の研修は、それだけでは無意味。下手をすれば研修を受けたことを免罪符にして差別的態度を続けかねない逆効果も、といった意外な指摘もある。
 欧米の事例が中心だが、著者本人の経験も含め、どの指摘も具体性に富む。会議室の壁に掲げられた肖像画の影響。数少ない女性を「お飾り」にしないチームの作り方。成功例を目立たせることの大切さ――。
 大きな武器になっているのが、人間の現実の行動に着目した「行動経済学」の知見だ。同時に、ジェンダー平等の実現は「道徳的に正しいことだ」という出発点が、「偏り」に甘んじない姿勢を支えている。
 解決策に魔法の杖はないともいう。だからこそデータを蓄え、効果のあるデザインに向けて試行錯誤を重ねる。読み進めるにつれ、その迫力に圧倒される。
    ◇
 Iris Bohnet 行動経済学者。ハーバード大ケネディ行政大学院教授。本書は10年間の研究成果をまとめた。